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古事記伝
二十九
小竹は志怒(しぬ)と訓べし、〈上巻には訓小竹雲佐々とあれども、此は然は訓まじきなり、〉御歌に、志怒(しぬ)とあればなり、書紀神功巻に、小竹此雲之努(しぬ)と見え、万葉一〈八丁〉にしぬひつと雲借字にも、小竹櫃(しぬひつ)と書、又細竹(しぬ)とも書り、和名抄に篠細竹也、和名之乃一雲佐々、俗用小竹二字謂之佐々とあり、〈古は志怒と雲るお、後には志〉〈能と雲は野角楽忍(ぬつぬたぬししぬふ)などの類なり、然るに万葉一に、人麻呂の歌に、四能とあるは、めづらしきことなり、〉さて志怒(しぬ)とは、細竹お始めて、其外薄葦などにも雲て、然(さる)類の物の、幹の総名なるお、〈万葉一に、旗須為寸、四能乎押靡などあるも、薄の幹お雲り、しの薄と雲も、たヾ薄のことなり、一種の名には非ず、又葦にも葦の篠屋など雲り、〉もはら小竹細竹など書は、主とある物に就てなり、〈同く小竹と書けども、佐々と雲は竹に限れる名、志怒は竹には限らず、〉さて志怒てふ名の意は、なよヽかに靡(しな)ふよしなり、〈俗に雲しなやかなる意なり、奴と能と那とは、よく通ふ例にて、心も志奴に思ふ、又恋志奴布など雲志奴も、心のしなひしおるヽ由なり、思ひしなえてとも多く雲ると、合せてさとるべし、されば小竹も其例と同くて、志那比と雲意にて、志怒とは雲なり、然るお繁き意とするは非なり、後世に繁きことお志能爾と雲へど、其は古は無きことなり、〉此の小竹は、細竹にても薄などの類にてもあるべし、