[p.0710][p.0711]
冠辞考
九/美
みすヾかる しなぬ万葉巻二に、水篶苅(みすヾかる)、信濃乃真弓(しなぬのまゆみ)雲雲、〈こたへ歌にも同じくつヾけたり、今本には篶(すヾ)お薦(こも)に誤りぬ、〉こは真篶(ますヾ)お苅(かる)野とつヾけたり、荷田大人のいへらくは、水篶(みすヾ)は真(ま)すヾ也、〈水は借字、美と麻はことに通へり、〉神代紀に、使山雷者、採五百箇真坂樹八十玉籤、野槌者採五百箇野篶八十玉籖雲々〈今本は是も薦に誤ぬ〉これによるに、すヾてふ小竹(しぬ)おかる野につヾけし物也と、こは古意也、さか木の八十玉ぐしに対へる、野すヾの八十玉串は小竹(しぬ)なるべきもの也、〈集中の神まつりの歌に、竹玉(たけたま)お繁(しヾ)に貫垂とよめるも、此玉ぐしなるべしと、吾友菅原信幸がいひしはあたれること也、〉篶はしのめ竹の類にて、いとちいさくて、色黒き竹なり、それお阿波土佐などの国にては須々と雲といへり、東国の山辺にては、矢竹おもしかいふものヽあれど、猶別也、後世の歌に、吉野の岳にすヾ分てとよめるも、かの野篶也、〈旅人のすヾのしのや、さヽのやなどいへるもおもひ合すべし、〉