[p.0713]
古事記伝

小竹葉は佐々婆(ささは)と訓べし、下巻軽太子の御歌に見ゆ、万葉十四〈九丁〉にも佐左葉とよみ、今世にも然雲り、さて万葉集に佐々那美(さヽなみ)〈下の佐お濁るは誤なり〉といふに、神楽声浪と書る〈略て神楽浪とも楽浪ともかけり、和名抄に但馬国気多郡郷名に、楽前と書て佐々乃久万とよめるもあり、〉は、此の故事に因て、神楽には小竹葉お用ひ、其お打振音の、佐(さ)〈阿(あ)〉佐(さ)〈阿(あ)〉と鳴に就て、人等も同く音お和せて、佐〈阿〉佐〈阿〉と雲ける故なるべし、〈猿楽の謡物に、さつ〳〵の声ぞ楽むと雲も、松風の颯々と雲音より、是に雲かけたるなり、〉又竹葉の名お佐々と負るも、此音よりぞ出つらむ、〈細小の意以て名づけしには非ず、小竹と書る小字は、幹の小きお雲るにて別なり、〉神楽歌古本殖槻総角大宮湊田などの処に、本方安以佐々々々、末方安以佐々々々と雲ことあり、是は佐々佐々と唱たるか、又は佐〈阿〉佐〈阿〉お如此書るか、何にまれかの小竹葉の音に和せたる声より出づることなるべし、古語拾遺には、以竹葉飫憩(おけ)木葉為手草〈今多久佐〉とありて、飫憩振其葉之調也と雲り、