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農業全書
九/諸木
竹竹おうゆる地は、高くして平かなる所、山の麓谷川近き所の、黄白軟の地に宜しとて、猶肥て性よく、沙がちなる和らかなる地、湿気のもれやすきお好むと知べし、うゆる法、正二月、一かぶに三本も五本も多く立たるお、はちお広く付て、廻りの根およく切る物にて、さけくだけざる様に切廻し、末おも枝おも少づヽとめで、屋敷内ならば、東北の隅に地お広くほり、根先の方お西南の方にひかせ直にうへて、土おおほふ事五七寸、風に根のうごかぬ様に、三方よりませおゆひおくべし、踏付かたむる事なかれ、踏付る事竹おうゆるに甚いむ事なり、猶活付までは切々水おそヽぎ、其後牛馬糞、麦稲のぬかなどおいかほども多く入べし、竹は取分あけ土の浮たるにうへて盛長早き物なり、又竹はうへてわきより棒にてつきたるはよし、手風に触、又は手足お洗ひたる汁、女の面など洗ひたるあか汁おかくれば、盛長せずして、却て痛み枯る物なり、又月庵と雲古人が竹お栽し法は、溝お深くほり、乾馬糞お泥にまぜ一尺ばかりもおきて、夏は間おうとく、冬はしげく、三四本お一かぶとして浅くうへ、肥たる土お以ておほひ、泥土おかけ、ませお二通りゆひて、根の土おばきびしくうち堅むべからずと雲り、又竹林の南の方の科(かぶ)おほり取、此方にて北の方にうゆれば、根必南にさすゆへ、よくさかゆる物と雲り、雨の中か、雨お見かけてうゆべし、若西風の時はうゆべからず、竹にはかぎらず諸木も皆西風にうゆる事は忌物なり、又諺にも竹おうゆるに時なし、雨お得て十分生と、又竹お栽るは五月十三日、是お竹酔日とも、竹迷日とも雲て、此日竹おうゆれば、百活うたがひなく、即さかゆる物なり、又必五月にかぎらず、毎月廿日竹おうへて皆活共雲り、又正月一日、二月二日、三月三日、是も又よく活る物なり、又辰の日は毎月うゆべしとも雲り、いづれも根の土お厚く広く掘取一科お数人にて持ほど、大かぶにしてうゆれば、盛長せざる事なし、又菊と竹とは、根ながく上に向ひ出る物なれば、泥お多く添て、廻りよりおほふほどがさかゆる物なり、又雲竹お種るに、一人してかぶおうゆれば、十年にしてさかへ、十人して持程のかぶは、一年にしてさかゆるものなり、又太き竹お好みても、かぶ小さければふとからず、小き竹にてもかぶおふとくして、月菴がいへるごとく、根の下に糞お多く入るれば、ほどなくさかへ、大竹となる物なり、又竹お引取事は、籬お隔たる竹林の此方のかきねに、狸か猫お埋み置ば、明年笋多く出る物なり、又東家に竹お種れば、西家に土お種ると雲事あり、たとへば隣に竹おうゆれば、一方の屋敷には、其とおりに土お置ば、隣の竹皆土の高き方に、うつるといへり、竹お伐事、三伏の中か、又七八月およしとす、又臘月きれば、虫喰ず、竹お伐に、三お留、四お去と雲事あり、竹は七八年も過れば花お生じ、立枯する物なり、三年竹おば残し留めて、四年になるお伐べし、是竹林お生立(そだつ)る定法、肝要の事なり、四年にならざるはかならずきるべからず、跡の竹甚いたみて、大き竹林も小さくなる物なり、又竹は山間の物は柔かにしてかたからず、平地の園林は竹老てつよしと雲り、〈是山間の竹は気つよくさして其性はしかく、常の里なるは気やはらかにして、ねばりけあるお雲なるべし、山のはつよ過るならん、〉是お桶ゆひにたづねとへば、山林の竹はねばりけ少なくはしかく、平林のはねばり気ありてやはらかなりと雲、竹の性春はうるほひありて枝葉に発し、夏はしんにおさまり、冬は根に帰る、其故冬竹お伐ば、日数おへて後われさけて性強からず、夏はよけれども竹林痛む物なり、二つながら全き様にはならざるゆへ、七月末八月お中分とする事なり、又竹おうゆる時、枝お三四段おきて、末お節きはよりそぎ切て、きりたる節に水のたまらぬ様にすべし、竹皮などにて末お包みたるよし、されども多くうゆるには、なりがたき故かくはするなり、