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大鏡
五/太政大臣伊尹
太上天皇〈◯花山〉の御名は、ながくくださせ給ひにき、〈◯中略〉冷泉院にたかんなたてまつらせ給へるおりは、 よの中にふるかひもなきたけのこはわがへんとしおたてまつるなり、御返し、 としへぬるたけのよはひは返してもこの世おながくなさんとぞ思ふ、かたじけなくおほせられたりと、御集に侍るこそあはれに候へ、まことにさる御心にも、いはひ申さんと、おぼしめしけんかなしさよ、此花山院は風流者にこそおはしましけれ、〈◯中略〉あて御えあそばしたりしさまにけうあり、〈◯中略〉たかんなのかはお、おとこのおよびごとにいれて、めかヽうして、ちごおおどせば、かほあかめてゆヽしうおぢたるかた、又とく人たよりなしの家のうちつくり、法などかヽせさせ給へりしが、いづれも〳〵さぞありけんとのみ、あさましうこそ候ひしか、