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大和本草

論本草書本草綱目に、品類お分つに可疑事多し、菊、艾、茵、蔯、青蒿、黄花蒿は皆香気あれども、芳草類に不載して湿草にのす、然ども此草高燥の地に宜し、殊に菊及地黄は甚湿土お忌む、湿草と称すべからず、悪実、欵冬、地膚、蓼、蘘荷は、今世俗皆為佳疏、良賤所賞也、然るに菜類に不載之、〓菜、落葵、苦瓜は不可為菜、然ども為菜類、蘆は水草也、湿草類にのす、連翹は蔓草なり、不生于湿地、然に湿草にのす、胡椒は蔓草なり、然に諸木実と同く味果類にのす、故に人誤認て木実とす、常山と莽草は木なり、非草品載之毒草、石竜芮止扁は、本草曰無毒、然るに毒草類に載之、羊蹄は非水草、虎耳草酸醤草植之令伴石則可也、然非石草、水芹有芳香、水草也、非辛辣之物、然に葷辛菜とす、馬勃は芝栭の類なり、然に苔類に載たり、水草類に海藻、海薀、海蒂、昆布、石帆、水松等の海物お載たり、淡水に生ずる草と雑記す、河海淡鹹の別なし、苔類に、陟釐、乾苔の海物お巻柏、玉柏、屋遊等山陸の産物雑記す、水菜類に所載は皆海菜なり、水草類の内、海藻以下数品と同類なり、然らば則海草門一類にしてのすべきに不然、海草門なし、是亦魚品に河海お不分が如し、山海経爾雅等書皆以竹為草、又竹お非木非草とし別為一類説あり、然に綱目に竹お苞木類にのせたり、〈◯中略〉論物理蔓草は皆左旋す、順天之左旋也、左旋とは左より上り右に落るお雲、天道は左旋す、日月星皆同じ、人は北お背にし南に向へば、左は東右は西なり、日月天行皆東にのぼり西におつ、是左旋なり、順なり、茶臼のめぐるも、蔓草の物にまとふも皆左旋なり、右より上り左に落るは右旋なり、逆なり、或は茶臼の旋るも、蔓草の物にまとふも皆右旋と雲人あり、非なり、よく思ふべし、人力お以てせずして、天気と茶臼と、蔓草とのめぐりお以て考ふべし、