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兎園小説
十集
鶴の稲(○○○) 輪池この稲は十数年前に、奥州白河領に鶴のくはへ来ておとしヽ稲穂なり、これおうえて種とりて、こヽにもつたはりしお、浅草関氏の園中にうえてみのりしなり、穂の長さ九寸ばかり、粟粒凡八十五六七、粒の長さ三分五厘、広さ一分二厘ほどあり、或人のもち米なりといひしほどに、やがてねりて試みしが、至りて淡味なり、これは朝鮮の種なるべしといひあへり、平田篤胤曰、藁よはくて用に堪へざれば異国の産なる事明かなりといへり、西教寺曰、鶴は朝鮮よりわたると聞き及べり、さてかくばかり大粒なる米おみし事はあらず、もしは慈恩伝にみえし大人米(○○○)なるべきかといへり、按ずるに、慈恩伝にも、大人米は烏豆より大なりとみえたれば、いかヾあらん、高田与清曰、駿河国に米宮といふあり、いにしへ異国より渡りしとて、烏喰豆よりも大なる米お神体とせり、これ大人米なるべしといへり、