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庖厨備用倭名本草
二/麦
雀麦(しやくばく/しねい) 倭名抄に雀麦なし、多識篇からすむぎ、今俗ひむぎ、考本草、一名燕麦、故墟野林下に生ず、苗葉小麦に似てよはし、其実は穬麦に似て細し、苗は麦と同じ、穂は細長くして疎也、唐の劉夢得所謂兎葵燕麦、動揺春風者也、元升〈◯向井〉曰、此麦は自然生なり、苗葉は小麦に似たれども細くよはし、其実は穬麦に似たれども細かなり、右の説にみえたる如し、和名はしねい(○○○)と雲、此土にては穬麦雀麦ともに種ることなく、自然に生ず、其の穬麦の苗葉は、麦より大なり、雀麦の苗葉は麦より小くよはし、此差別あるのみなり、農人は二つともにからすむぎといひ、しねいともいへり、しねいとは、自然生の義なり、然れども本草の注によれば、雀麦は自然生なり、しねいと雲べし、穬麦は人これお種る、倭名抄によつてからすむぎと雲べし、本草注に又雲、雀麦は皮おうすくへぎ去て、麪にしてむし食す、又餅に作りて食す、荒歳お救ふべし、今正二月に初生の青葉お以て、汁おつきて米粉に和し、餅に作りむし食す、色青翠して香味甚佳なり、雀麦味甘、性平、毒なし、飢に充て腸お滑にす、苗は味甘、性平、毒なし、女人の産不出お主どる、煮て汁お飲之、