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百姓囊

農人の諺に、夜さむ麦吉といふは、大寒の時分より正月の末二月の初頃まで、寒強く霜よな〳〵おきて、さのみ雨多からぬおいふなるべし、春早く暖に成ぬれば、麦苗長じすぎて、実入すくなし、初春晴霜多きときは、麦根土中に伏蔵して精気強く、仲春の暖気に遇て、茎葉長成し、穂粒堅実なるおいへり、