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源平盛衰記
二十六
祇園女御事忠盛馬より飛下、太刀おば捨て、得たりやおふとぞ懐たる、手捕にとられて、御誤候なと雲音お聞ば人也、己は何者ぞと問えば、是は当社の承仕法師にて侍が、御幸ならせ給の由承候間、社頭に御灯進せんとて参也と答、続松お出して見れば、実に七十計の法師也、雨降ければ、頭には小麦の藁お戴、右の手に、小瓶お持て、左の手に土器に煨お入て持て、煨おけさじと吹時はさと光、光時は小麦の藁が耀合て、銀の針の如くに見えける也、事の様一々に顕て、さしも懼恐れつる心に、いつの間にか替けん、今は皆咲つぼの会也けり、