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嬉遊笑覧
六下/玩弄
麦わらの蛇、并唐団扇、江戸砂子駒込富士権現祭日、当所の産唐団扇、麦わらの蛇、五色網、夏の果物と見えたり、六玉川、〈六篇〉江戸は蛇が出てあつい朔日、江戸二色にも、その画あり、狂歌にや、水無月のついたつ市の売ものは外にたぐひのあらぬうちはぢや、江戸塵拾、駒ごみ不二祭、麦わらの蛇は、宝永のころ、此処の百姓喜八と雲もの、ふと案じ付て、これお作りて売といへり、〈浅草の不二権現にて、此蛇お売は近きことゝみゆ、〉江戸近在お二月頃あるきてみれば、田のくろに竹など立て、藁合子にこの蛇のごとく、稲稈にて編たるものお結付たり、おもふに初午稲荷祭に、わら合子作りて、供物お入るなるべし、その合子の編かた、この蛇の口の如し、次でに蛇お作りゆひ付るは、蛇お避る呪ひなどにや、蛇は合子のあみかたより出たりとみゆ、常のは大森村の外に、麦わらの手遊び売所なし、駒込麦わらの蛇は、宝永の頃、此の処の百姓喜八と雲もの是お作りて、祭礼の日市に売る、一とせ疫病はやりし時、此蛇ある家は免れたりと雲ふ、雑司谷麦稈の角兵衛獅子は、高田の四つ家町に住し、久米と雲へる女製し初たり、寛延二年の夏の事なり、其ころ参詣多かりしかば、よく售たりとぞ、