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宇治拾遺物語

これも今はむかし、い中のちごのひえの山へのぼりたりけるが、桜のめでたくさきたりけるに、風のはげしくふきけるおみて、このちごさめ〴〵となきけるおみて、僧のやはらよりて、などかうはなかせ給ふぞ、この花のちるおおしうおぼえさせ給か、桜ははかなき物にて、かくほどなくうつろひ候なり、されどもさのみぞさふらふとなぐさめければ、桜のちらんはあながちにいかヾせん、くるしからず、我てヽの作たる麦の花(○○○)ちりて、実のいらざらんおもふがわびしきといひて、さくりあげてよヽとなきければ、うたてしやな、