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うけらが花
二篇七/長歌
浜田君のしりたまへる、石見国長浜のむらに、麦の八重穂といふものなり出たりとて、見せたまへるによりて、ほぎ歌よみてまいらす、角さはふ、石見のくにの、白浪の、浜田のさとの、君がよお、長浜の村に、ゆだねまき、おほせし麦の、五月きて、ほに出る見ればその麦の、くき一もとに、さきくさの、三穂ならび出、たまくしげ、二穂にわかれ、いやさかえ、立さかえけり、千早ぶる、神のみよヽり、天のした、あお人ぐさの、二なき、いのちつぐなる、たなつもの、五くさの中の、おさとしも、たふとむ麦の、かく計、八重穂さかえて、その名さへ、長浜の村になり出しは、いまよりおちの、八百万、よろづよかけて、八十つヾき、君がしらさん、ことおしも、国つみ神の、かしこくも、しめしたまへる、さがにやあるらむ、  反歌ながはまや八重さかえたる麦のほにとしゆたかなるほども見えけり