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農業全書
二/五穀
蜀黍(○○)是お唐きびとも、又甚高くのびぬる故、高黍(たかきび)とも名付るなり、地の薄く瘠たるには宜しからず、春はやく苗地おこしらへ肥し置、二月たねお薄く蒔、苗七八寸の時移しうゆべし、種る所は少し湿気ごヽろの地、いか程も深くこえたるお好むものなり、又やしきの内畠の端々、或下湿の地、五月雨に水あつまりて、他の作り物は水底になり、日数おふるゆへ、作りがたき様の所などに多く種て、利お得る事ある物なり蜀黍は、色々に用ひ、能多き物なれば、農人の家に必是お作るべしと、唐の書に記せり、茎の高さ一丈もあれば、水難の地に作りてよし、其粒蟹の目のごとく、其穂は薄の尾花の大きなるがごとし、実お取て稈おば簾にあみ、〓にうち、又民家の箒にも用ゆべし、或隣ざかいの〓(まがき)にもたて、其破おふさぎ、米は色々食物に調へ、猶餅にして味よし、殊更性のよき物なり米も稲も皆すたる物なし、但一の難は、大方の地にうゆれば、跡甚瘠るものなり、又根よりわきに出るめお度々切さるべし、又一種あり、たけひきく、穂の少し下の方より、くきかヾむあり、此黍実多く早熟す、是上種とすべし、又一種玉蜀黍(なんばんきび)と雲あり、種る法前に同じ、其粒玉のごとし、菓子にすべし、是も早くうゆるおよしとす、遅ければ風難あり、且実りも少し、是又肥地お好む、瘠地には実ず、根より出るひこばへお去事前に同じ、