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重修本草綱目啓蒙
十七/稷粟
穇子 ひえ 一名鴨脚稗〈時珍食物本草〉水陸二種あり、たびえは下湿の地、稲に宜しからざる処に栽ゆ、畑びえは陸地他の作物の生ぜざる処に栽ゆ、皆形粟黍類に似たり、穂はあはの如くにして小さく枝多し、一寸許の長さの紫芒あるお毛びえ(○○○)と雲、糯なり、短毛なるおむぐろもち(○○○○○)と雲、芒なきおわさびえ(○○○○)と雲、〈共丹波の方言〉秋びえ(○○○)は生熟共に最遅し、凡ひえは賤品なれども、水旱に損ぜず、夏洪水にて苗流れ、或は腐たる時、ひえお種ゆ、増、穇子おひえに充つるは誤なり、蘭山翁この条に説く所、悉く下の条の稗なり、穇子は皆陸生にして、水陸の別あるものに非ず、本草綱目纂疏雲、穇子、往歳中山人伝種於薩摩、一窠生数十茎、毎穂盈掌、其利殊多、其穂成岐、時珍言如竜爪是也、これ真物なり、たうびえ(○○○○)又かもまたきびとも呼ぶ、六月種お下して九十月に熟す、高さ三尺に過ぎず、葉の形稗に比すれば至て細長くして厚く、深緑色なり、穂の形おひじわに似て、五六岐お生ず、各扁くして長さ二寸許、鴨爪の形の如し、故にかもまたきびの名あり、実の形常のひえに似て熟して青し、百品考に見へたり、救荒本草の図に、穇子の穂には岐なく、稗子の穂に岐あるは互に誤なり、