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成形図説
二十/五穀
比延〈◯註略〉真穇(ほむびえ/○○)〈草稗に対へいへり◯中略〉此もの水陸の二種あり、卑湿にうヽるお水穇(みそひえ)と雲、水田に作れり、万葉に水おおほみあげに種蒔ひえおおほみえられしゆえぞ我ひとりぬる、即このものなり、信濃岩田村は国の高処にて、六月麦お刈あげ、七月僅に稲穂お出すといへども、間もなく秋霜に傷(いたまさ)れて、穎実お結びがたきことあり、故に水穇お作れり、〈◯中略〉陸穇(はたひえ)は、山野の樹木お燎夷(やきたひらげ)て、其木灰お肥として、この種お播(ほどこ)す也、字鏡に所謂不耕而種お焼蒔(やきまき)とも荒蒔(あらまき)とも雲、即是なり、日向諸県郡以北、肥後五家の荘に至ては、連山波涛のごとく、絶険狭隘にして稲田お佃(つくり)がたく、山民時おうかヾひ、叢林お伐、火お烈て、其灰となるお待つ、乃穇子お播植、これお収て周歳の饔餐に供ふ、俗呼て木場穇(こばひえ)と雲、〈凡山伐(たつき)の山林に入て、材木お採の地お木場と雲、笠葉(こば)とは蒲癸(びろう)なり、蒲癸の葉菅に似たるおもて、菅笠おばこば笠と名く、而して穇子の葉亦菅に似たり、故に穇子お古婆比延と唱といへり、◯中略〉秋穇(あきひえ)は芒多く、猪鹿〓も食ず、故に山農好て之お種(つく)れり、