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重修本草綱目啓蒙
十七/稷粟
稗 のびえ(○○○)野生のひえなり、数種あり、旱稗はいぬびえと雲ふ、陸地路傍庭院に自生す、苗は狗尾草(えのころぐさ)の如く、扁茎叢生し正立せず、夏已後穂お出す、穇子(ひえ)に似て小さく、緑色芒ある者あり、芒なき者あり、紫芒なる者お黒いぬびえと呼、一名くまびえ〈仙台〉即〓なり、水稗はくさびえと呼ぶ、一名みづびえ、即莠(くさ)なり、形旱稗に同して田中に生ず、故に形長大なり、穂形も旱稗より大なり、古来莠お狗尾草とするは誤なること、正字通に弁ぜり、蘭山翁穇子の条に説く所は、悉く稗なれども、この条に説く所は穇子には非ず、のびえは稗の種類にして、主治に説く如く、飯となすべき者にあらず、稗は集解に一斗可得米三升と雲、即ひえなり、一斗お搗て皮お去れば僅に三升となる、水稗あるゆへに、時珍も旱の字お下せども、旱稗は即単に稗と雲もの是なり、のびえは皆自生の稗にして、子落て野に生ずるには非ず、野生にして稗に類するお雲、猶荏に野荏あるの類なり、水稗はこヽに説く如く、俗にくさびえと呼ぶ、即莠にして、田中に多く生ず、然れども葉細くして、旱稗に同じきものには非ず、故に甚だ稲に混じ易し、老農に非ざれば弁別し難く、穂の出るに至て、始てその莠なることお知る、孟子に悪莠恐其乱〓苗と雲、時珍も最能乱苗と雲是なり、一種稗に矮生のものあり、苗高さ四尺許、尋常の稗の六七尺にも及ぶに異なり、茎葉共に肥豊にして勁く、深緑色なり、実も大なり、これおちごびえと呼ぶ、又一種八斛びえと雲あり、苗の形尋常のものより小にして、ちごびえより大なり、実お結ぶこと最多し、然れども田地瘠て、反て翌年種ゆる所の穀実お結ぶこと少なし、又集解蔵器の説に、紫黒者似芑有毛北人呼為烏禾と雲ものは、穇子の下に所謂、紫芒あるお毛びえと雲、糯なりと雲ものなり、阿州祖谷(いや)山一宇山は深山にして、長さ十三里、幅七里の間、田地甚だ少なく、且他の穀は育せず、故に土民山腹の樹木お伐て、乾枯お待ち火お放ち、これお灰となし、石間樹根お分たず、稗お漫撒して日用の食とす、然れども三年の後地お換ざれば、地瘠て亦育せず、その樹お伐り焚て種お下すお火種と雲、本草綱目纂疏引雲谷雑記雲、沅湘間多山農、家惟植粟、且多在岡阜、毎欲布種時、則先伐其材木縦火焚之、候其成〓灰、即種于其間、如是則所収必倍、蓋史所謂力耕火種也、