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救急或問
一天災流行は世の常理にして、禹湯の聖代と雲ふとも免ること能はず、古人も救荒無良策と雲て、差掛りては実に救ひ難し、預め備お為さヾるべからず、昔より常平義倉社倉等の法ありて、今も之れに効ひて非常に備る国あり、至極の美政なれども、米は新故出納の煩あり、且価貴きゆえ種々の悪弊お生じて、終に有名無実となること多し、其弊お防ぐには稗お蓄ふべし、稗は数十年蓄へ置ても臭腐せず、味美ならず、価賤しければ移動の憂なし、然れども〓饉の夫食と為んには、草根木皮より其養ひ万々なるべし、此お以て食料の本とし、老幼病人等の気力お補ひ、米お糶ふは容易の事なり、民に喩して自ら蓄させんは宜しけれども、急には行はれ難かるべし、先ず上より其事お始め、収納高百分の一お稗にして納めしむべし、稗は至りて蕃殖し易き物なり、塉薄の地お開墾し糞力お費さずして、常穀より多く収む、百分の一は十万石の高にて千石高なり、然れども蕃殖し易く価賤きゆえ、倍納せしむべし、是お折色と雲ふ、折色とは品替りの事なり、