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冠辞続釈
三/加
かるかやの みだれ古今集、まめなれど、何ぞはよけく、かるかやの、乱れてあれど、あしけくもなし、実法めきたる人も、必よき事のみにはあらず、我おこなひの乱りざまなるも、はたあしきむくひのきたるのみにあらずと也、かるかやはみだれざまになる物也、今は一種の草の名にて、茅の類の、長だち二尺ばかりに、秋は葉も穂も共にもみぢする物也、古歌によみしは是にあらず、なべての草のおひたけ立たるお苅て、仮初のいほりに取ふく名、神代紀に、野の神お茅野姫と申も、草といはぬは、家にとりふく用お、専らたとむ故也、そのかみは旅ゆきして、野山に夜ごとやどりおつくりてふせりし、それお行廬と雲、万葉集に、秋のたに真草刈ふきやどれりし、宇治の都の、かりほしおもほゆ、又、我夫子は、かりほつくらす、かやなくば、小松がもとの、かやおからさね、又、拾遺集にもいにしへにならへる歌、旅人のかや刈おほひ作るてふまろやは人おおもひわするヽ〈丸屋お我おまろと雲にかけたり〉是等は荒草なるお、仮そめの屋おふくとて刈お、刈かやと雲也、〈かやはかりやのつヾめ言也〉又坂上是則の集に、霜枯のあさぢがもとのかるかやの乱て物お思ふ比かな、壬生忠岑の集に、咲花のはかなかるかやにほひつヽ人の心おあだになすらん、是等は今の草の名なるべし、又源順のせんざいの歌合せに、ゆく秋の凡そみだるヽかるかやはしめゆふ露もとまらざりけり、右の方の歌、うつし植ばつかのまもなくかるかやの三千代の数おかぞふばかりぞ、此判の詞に、此かるかやは、たヾのぶが三千代のかずといへるわたり、秋のヽにかるかやにはあらで、春の野に咲けん物の花なん思ひ出らるると有て、言の葉の、こはく見ゆれどすまひ草露にはうつるものにざりけるといへるは、何の草にや、詞あきらかならねば、知がたし、