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嬉遊笑覧
十二/草木
すまふ取草にて童ども勝負お争ふ戯あり、〈◯中略〉物類称呼に、菫は畿内及び近江、加賀、能登、又東海道筋総てすまう取草と雲ふ、江戸にてすみれといふ、〈◯中略〉又東武にてすまふとり草と雲別種あり、江戸の鄙にては、はぐさ(○○○)と呼草の穂に出たるお雲、尾州にてやつまた(○○○○)と雲是也、貞砂が、足お空なるすまふ取草といひし附句合も、むかし語となりぬといへり、本草啓蒙、〈◯中略〉江戸にて相撲とり草と呼ものは、詩経名物弁解に、芩〈小雅鹿鳴章〉朱註、芩草名、茎如釵股、葉如竹蔓生、郷名ひしは(○○○)雲々、此物野外間あり、おひじは、めひじはの二種ありといへり、此説誤れり、朱伝は陸璣が草木疏の文に随ふ、これは地しばりといふものなり、その根節ありて、葉も竹に似て蔓延するものなり、さて其ひしはといふもの雄雌あり、叢生するものにて苅れ共苅れ共生ずる故、肥後にて小ざうころしといふ、漢名は馬唐なり、その穂四つ五つ叉になるおつみとりて倒に席上に置、二つよせて席お敲けば、自ら跳りてすまふ取さまあり、組合せて席おうてば、一つは倒るヽなり、ひじはの名義おぼつかなけれど、旱(ひ)芝にや、〈旱地に生て枯れざるなり〉