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重修本草綱目啓蒙
十三下/毒草
虎掌 天南星 とらのお(○○○○) やまにんじん(○○○○○○) てんなみさう(○○○○○○)〈加州、天南星の音の転じたるなり、〉 一名半夏精〈輟耕録〉 蛇頭草根〈薬性奇方〉 豆也摩次作隻〈採取月令〉 豆也麻造作隻〈村家方〉 豆也末注作隻〈郷薬本草〉深山幽谷に生ず、春宿根より苗お生ず、一根一茎根肥大なる者は茎径一寸許、長さ六七尺、小根の者は二三尺、形円にして直立す、淡緑色にして白斑ありて光沢あり、其茎に二葉互生す、一は大にして下にあり、これには長葉九つ或は十三簇れり、一は小にして上にあり、此には長葉五つ或は九つ簇れり、其蒂も亦同色なり、四月茎の梢に花お開く、本は巻て筒の如し、末は開て尖れり、蓮花の一弁の如し、漸く半より前に折て、筒の上お蓋て鐙おくつがへすが如し、其弁緑色と紫黒色との粗き間道(しますぢ)あり、筒の中に長円蘂一つあり、大さ小指の如し、上大下小にして臥槌(よこつち)の形の如し、黄白色、花衰て弁黄色に変じ、漸く皺み垂て落つ、中の蘂漸く長大にして上出す、外に円珠多く綴り緑色なり、秋に至れば実の大さ南天燭子の如く、色赤く愛すべし、冬は茎葉腐煉し、実地に落来春自生す、根は冬お経て枯れず、形円扁にして蒟蒻(こんにやくいも)の如し、一種斑杖形状甚だ相似て紛れ易し、山谷に多し、又竹林中にも生ず、茎淡緑色にして紫黒斑あり、葉花実根並に天南星に同じ、唯茎紫斑花緑白間道の者多し、俗にへびの大八と雲、一名まむしぐさ、やまごんにやく、くちなはのしやくし、のどしばり、〈雲州〉へびのだいわう、〈佐州〉だいはち、〈南部〉此は根に毒多し下品とす、然れども南星は少く斑杖は多し、故に売者多は此根なり、肥前五島より多く出す、斑杖の名は蒟蒻の下に見えたり、蘇容は虎掌天南星お分ち説く、時珍は混じて一とす、宜しく蘇の説に従て、二物となすべし、天南星は根円扁にして、黄独根(かしゆういも)の如く、大塊唯一顆にして子なし、蘆頭に鬚あり、虎掌は根の周囲に小子多く著り、苗の形天南星に似たれども、茎に白斑なくして細黒点あり、一根一茎一葉、葉狭長にして数多し、花中に長蘂なく、長線お出し垂る、長さ一尺余、俗に此お浦島草(うらしまさう/○○○)と呼ぶ、浦島太郎釣おたれし形に象る、加州にて天狗のはね(○○○○○)と呼、本草彙言曰、南星即虎掌同類而異種と雲、本草原始にも虎掌南星の分別の説あり、〈◯中略〉増、一種蝦夷産の天南星あり、苗高さ七八寸、茎青くして淡褐色の斑文あり、葉の形ゆきもちさうに似て細く、粉緑色なり、葉中に黒斑あり、夏月花お開く、青色にして淡紫色の斑点あり、