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重修本草綱目啓蒙
十三下/毒草
半夏 かたほそ(○○○○)〈延喜式〉 ほそぐみ(○○○○)〈和名抄〉 からすびしやく(○○○○○○○)〈京〉 しやくしさう(○○○○○○) みづだま(○○○○)〈江戸〉 すずめのひしやく(○○○○○○○○)〈防州〉 きつねのしやくし(○○○○○○○○)〈江州〉 からすのこめ(○○○○○○)〈同上草津〉 へぶす(○○○)〈仙台〉 かぶらぶす(○○○○○)〈南部〉 くりこ(○○○)〈肥前〉 へひす(○○○)〈奥州〉 ほぞくり(○○○○)〈筑前〉 づぶろこ(○○○○)〈佐渡〉 へそくび(○○○○)〈備後〉 一名痰宮劈歴〈輟耕録〉 雉毛邑〈採取月令〉 示姑〈証類本草〉 雉毛奴邑〈村家方〉野生多し、甫中墓地に多く自生す、二三月旧根より数茎お生ず、茎頭ごとに三葉つきて、慈姑花(おもだか)の葉の形に似たり、上の一葉大にして下の二葉小し、或は長く或は短く変態多し、又竹葉に類するもあり、竹葉半夏と雲ふ、四五月別に一茎お抽ずること、葉茎より長し、頂に長筒あり、後縦に開て深き匙の如し、外は緑色、内は紫黒色にして蕊あり、南星の蕊の如くにして小く、蕊上に長く尾ありて直立す本は粗く末は漸く細く尖りて鼠尾の如し、其根は土中の白蒻の末にあり、形ち円し、これ宿根なり、採りて薬用とす、又茎上葉際に小白塊あり、嫩根なり、礼記月令に、五月半夏生ずと、〈半夏生は夏至の第二候なり〉この苗は二月に生ず、五月と雲ふものは嫩根の生ずるお雲ふなるべしと、先師の説なり、これ羊眼半夏なり、一種おほ半夏あり、高さ一尺余、葉花根共に大なり、方書及附方に斉州半夏大半夏と雲是なり、薬家に売るものは皆和産なり、白色の者お以て上とす、其黒色或は赤色お帯るものは腐たるなり、防州より来るものは粒小なれども、皮浄く採れて内に腐りなし、芸州も亦同じ、江州のものは皮浄く採れず、大なる者は内に腐りあり、肥後も亦同じ、薬四にて皮お去たるお洗半夏と雲、皮お帯ぶる者お麹下(きくじた)と雲、〈麹の下地と雲ふこと〉至て小なるものお豆半夏(まめはんげ)と雲、小にして売れざるものお柬び出し、湯に浸し杵砕、円餅になして麹半夏と雲ふ、製造精しからず、故に毒あり、宜しく自ら製すべし、其法は修治及本草彙言に詳なり、薑汁白礬湯に和しねさせ、黄衣(はな)お生ずるお麹半夏と雲ふ、隻砕て堅めたるは麹に非ず、本草備要に十種の麹法あり、増、一種細葉のものあり、高さ六七寸、葉細長くして三岐おなす、茎弱くして直立しがたし、花実の形尋常のものに似たり、又一種蛮産の半夏あり、又琉球の半夏とも呼ぶ、大抵半夏に似て小く、葉の形ち旋花(ひるがほ)、或は苦蕎麦(みぞそばの)葉の如く、一葉にして下両方へ分る、一根数葉お生ず、夏月別に茎お抽て花お開く、半夏より大にして形天南星の如く、一弁にして長さ三四寸、末下に曲りて象鼻の如し、弁外淡青色にして糸条あり、内に光沢あり、紫黒色の斑文ありて、弁頭に至て漸く淡く、その蘂長さ五寸許、この花の形船中に柱お立たるが如し、花に悪臭あり、花謝して後実お結ぶこと、天南星の如し、根の形は半夏に似たり、甚だ寒気お畏る、これ半夏の類なり、