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成形図説
二十二/菜
凡芋に早中晩の属、水旱(たはたけ)の二種あり、其品数十名にして、大小と円く長き等の異、又は味の美悪、地道(つちがら)の厚薄に因て諸道同じからず、〈◯中略〉早芋(わさいも/○○)は七月生霊会の頃に熟(いでき)て、中手(○○)なるは八月に及て取れり、早手は鶴児芋(つるのこいも)てふものお上等とす、〈其芽長きが故に名く、沖縄にて芋の大名お鶴の子と雲、こは西土の蹲鴟と雲に相似たり、〉一種(/○○)美賀志伎芋(みがしきいも/○○○○○)あり、〈俗言野菜芋、ずひき芋なども呼り、〉子なく、根より蔓のごと四方へ筋お延して、其端より淡青茎お生ず、植るも其筋お畠に漫撒(ばらまき)し、上より踏穣糞堆(ふみわらごもく)の類お覆ひ置ば、中夏の頃には既(はや)く其茎お引抜つヽ、羹料に挫用(きりつかひ)て少も薟味(えぐみ)なし、〈◯中略〉赤芋(あかいも/○○)〈根茎ともに紫色なるおもて雲〉 栗芋(くりいも/○○)〈◯註略〉 衣被芋(きぬかづきいも/○○○)〈皮かぶりたる名なり、又皮ながらに煮お黒煮(くろゆで)と雲、〉 都芋(みやこいも/○○)〈日向わたりにて称ふ、南京芋とも雲り、〉〈東奥にて黒茎(くろがら)、遠江などにて女芋(おみないも)と呼べり、〉 真芋(まいも/○○)〈肥後あたりにて雲〉 薹乃芋(たうのいも/○○○)〈或頭の芋とも◯中略〉赤いもは高三尺より五六尺にも至る、其魁大缶の如し、地深は長く、浅ければ円し、此物黒皮厚く、毛多く、肉は白し、絶て薟なく、味柔滑なり、又栗芋(くりいも)てふ種は、生ながら食ふべし、京師近郊には壟区に水お引て蒔るもの殊に茎肥太し、四時ともに取用ふ、〈◯註略〉 八頭芋(やつがしらいも/○○○)、〈亦曰八口(やつくち)、又親せ賀美(がみ)芋など雲、子芋の魁の四傍に囲附て生る故の名なり、〉此もの魁扁く、一頭に数芽お生(いだ)す、故に名とす、茎少紫(あか)く尾細にして、下に子芋支出(えださす)なり、 切芋(○○)と雲あり、魁お幾にも切分て、灰に塗てうヽるものぞ、肉赤く、粘あること餅の如し、〈◯註略〉 穴芋(つぼいも/○○)は皮薄し、〈穴、書〓に通凡(つぼ)と訓る、此義也、〉植る時甫中お一所づヽ穴お掘窪て母魁(おやいも)お置、故に名とす、大なるは尺に余れり、 音頭芋(おんどういも)、魁極て巨なるは尺五寸回に過て、長さも是に称(ひと)し、皮薄く、味も菲(うす)く子少し、大隅種島に産るは甚大きく、頭巨にて長し、〈◯中略〉 霜芋(しもいも/○○)、〈亦曰島芋(しまいも)、蓋しもとしま音近し、又是お根芋あるは薟芋(えぐいも)など称ふ也、〉此芋中の中手なり、茎甚高からず、茎葉ともに淡青し、味蘞(えぐ)くて人の咽お戟(えぐつ)かす、魁はなく、子は根お環りて多く附り、皮薄く毛なし、外は黄白色に肉白し、清人是お芋卵、或は芋仍と雲、中夏の頃出すもの其味よし、秋に到りて子熟(みい)れば稍劣る、又能貯ふれば明春に及びて食用に供ふなり、唐本草に青芋とあるは、即此ものなり、〈◯中略〉 蓮芋(はすいも/○○)〈畿内〉 薹乃芋(たうのいも/○○○)〈西州魁なく、唯茎お採用る故に名く、◯中略〉 此もの種子なし、春暖お得て宿根より芽お発し、高三尺許に至り、〈子芋お植しは、本年の中には長(ふとり)がたし、〉茎葉の形もろくて淡縹色なり、皮剥易し、又幹の中荷茄(はすくき)のごと孔あるおもて蓮芋の名お負す、生ながら魚生(なます)に伴ひ、酢醤に和て食ふ、夏秋の交亦一の佳趣お得たり、煮は生に及ず、 此もの秋の季霜将に降なんとすには、株の上に穣の〓(おほひ)しつヽ、其儘に種子となすべし、別に埋るはあしヽ、田芋(たいも/○○) 水芋(みづいも/○○)〈並に水田の中に栽るよりの名也◯中略〉此もの東西共に暖地水中に〓(うヽ)る也、或は稲田の際に培へり、形青芋に似て、茎僅に尺許、春の末に旧荄(もとね)より生(はえ)り、味勝たり、獣肉に交て羹とす、 南島専之お営(つく)る、〈島峙は海颶多し、此芋は水田に〓る故風損なし、〉〓るには芋の土頭涯(かぶぎは)お一二分切て、茎お一寸許残し、切口おば田に打没(こみ)置ば、其もの復芋と成る、沖縄等等の婦女篠(あじか)と手引てふ金箟お提げもて〈◯註略〉田に下り、芋の大なるお択み、手引もて根鬚の四辺お周鋤(ほりまはし)て取上つヽ、小きのは田に残し置て三年一収(みとせめ〳〵にとる)こと也、又婦女布帛の縷お染む、其色や赤褐にて千回百般浣(あらふ)といへども脱(さめ)ず、徜その茎お吾家に採もち還て染る時は、其色お発(いだ)さず、唯其所に就て且折且染る也、寒国に此芋希(すくな)し、