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今昔物語
三十一
佐渡国人為風被吹寄不知島語第十六今昔、佐渡国に有ける者、数一船に乗て物へ行けるに、奥中にして俄に南の風出来て、船お北様に箭お射るが如くに吹き遣りければ、船の者共、今は限りぞと思て、艫おも引上て、隻風に任せて行けるに、奥の方に一の島お見付て、構て彼の島に著ばやと思ひけるに、思の如く其島に著ぬ、〈◯中略〉島の者寄来て雲く、此の島へ呼び可上けれども、上なば其こ達の為に悪き事の有ぬべければ也、此れお食ひて暫く有らば、自然ら風直りなむ、其の時に本国に返り可行き也と雲て、不動と雲ふ物と芋頭(○○)と雲ふ物とお、持来て食すれば、糸吉く食てけり、不動と雲ふ物も極て大き也、芋頭も例のよりも事の外大きにてなむ有ける、此の島には此お食物として過る也とぞ雲ける、