徒然草

上

真乗院に、盛親僧都とてやんごとなき智者ありけり、いもがしら(○○○○○)といふものお、このみておほくくひけり、談義の座にても、おほきなる鉢にうづだかくもりて、ひざもとにおきつヽ、くひながら文おもよみけり、煩ふ事あるには、七日二七日など療治とてこもりいて、思ふやうに、よき芋がしらおえらびて、おほく喰ひて、よろづの病おいやしけり、人にくはすることなし、たヾひとりのみぞくひける、きはめてまづしかりけるに、師匠死にざまに、銭二百貫と坊ひとつおゆづりたりけるお、坊お百貫にうりて、かれこれ三万匹お、いもがしらのあしとさだめて、京なる人にあづけおきて、十貫づヽとりよせて、芋がしらおともしからずめしけるほどに、又こと用にもちゆる事なくて、其あしなみに成にけり、