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精進魚類物語
豊葦原の中津国五畿七道おわかたれし、王城より子の方、北陸道越後国大河郡鮎の庄の住人、鮭の大介鰭長が嫡子鮞太郎粒実、生年積て廿六歳にまかりなる、われとおもはむものは、押ならべてくめやといひて、えびらのうはざしより、鯖の尾の狩俣ぬき出し、能引つめて放矢に、芋頭(○○)の大宮司かしら射わられ、馬より下に落にけり、芋が子共引しりぞき、いかにせむとぞなげきける、〈◯中略〉そのヽち大宮司、世にくるしげなる息おつき、鬚かきなでの給ひけるは、われはたけ黒(○○○)お出しより、命おば御料に奉る、かばねおば竜門原上の土にうづみ、名お後代にあげむと存ぜしなり、しか〈◯か下恐り字脱〉しによりて、此疵おかふむる、これにてたすかる事はよもあらじ、たヾ跡に思ひ置事とては、そヽりごの事ばかり也、我いかにもなりなむ後は、すりだうふの権の守おたのむべし、始より今にいたるまで、なさね中はよからぬ事なり、かまへて〳〵権の守にたのむべしとのたまひければ、嫡子黒ゆで(○○○)の太郎是おきヽ、我等弓箭とる身にて候へば、けふあればとて、明日あるべしともおぼえず候、作去そヽり子(○○○○)は、権の守に申つくべく候と申ければ、大宮司是おきヽ、ずいきのなみだおぞ流されける、御料是お御覧じて、かくぞ詠ぜさせ給ひける、 このいものはヽいかばかりはかるらんにたる子どもおみるにつけても