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重修本草綱目啓蒙
十三下/毒草
鉤吻〈◯中略〉蔓生、黄精葉、芹葉等数種あり、〈◯中略〉黄精葉の鉤吻(○○○○○○)は草木二種あり、木本(きたち)の者はなべわり、〈加州〉一名ひところび、ひところばし、〈能州〉どくのき、〈同上〉ねぢころし、〈越中〉さるころし、〈西国〉むまおどろかし、むまあらひうつぎ、〈佐州〉かなうつぎ、〈北国〉みそやかず、〈同上〉ぶす、〈木曽〉ましつぺい、〈上野〉かわらうつぎ、〈水戸〉とりおどろかし、市郎兵衛ごろし、東北国に多し、移し栽ゆれば繁茂し易し、高さ五六尺叢生す、葉両対して竜胆葉に似て尖り長し、三縦道あり、夏の初花穂おなす紅色、長さ六七寸、枝あり、実は円に扁く二三分許、熟して色赤し、誤て食ふ時は死す、葉お採り飯に雑へ、鼠に飼ふも亦死す、故にねじころしと雲、草本のものも亦なべわり(○○○○)と呼ぶ、中国及河州金剛山、勢州鈴鹿山に産す苗黄精に似たり、葉は萎蕤に似て光沢あり、茎は赤くして粉のふきたるが如し、花は酸漿(ほうづき)の花の如し、人誤て其葉お嘗むる時は舌破裂す、故になべわりと名く、〈◯中略〉余〈◯小野職孝〉嘗て阿州医学館に在し時、薬お甲乙山に採る、友人左手に金瘡あり、黄精葉の鉤吻お採りしに、その手忽ち紫色に変じて暈倒す、蓋し毒気創痕より、経脈お犯すに因る、記して以て戒とす、又近年蘭学者流芹鉤吻お取て煎剤に用ゆ、名けてしきうだと呼び、薬四にもこれお售る、然れども未だ其功効お知らず。