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傍廂
前篇
毒物荏原郡石川村の辺の道路のかたへの草村に、目なれぬ草花ありしお、来かヽりたる農夫にとひければ、毒物なりとこたへていにけり、こヽろえぬ事いふおのこ哉、草にも木にも大毒小毒あるは、あまたなるお、是のみ毒物といへるはいぶかしき事なり、漢名俗名あるべきおと思ひつるに、後その筋なる物産医に問ひければ、俗に毒の木(○○○)といへり、漢名は木本黄精葉鉤吻(○○○○○○○)となんいひける、天野信景の塩尻に、芫花(○○)といひて毒物あり、三月紫花お開く、藤に似たり、二尺許の小木にて、紫荊樹に似たりといふもこれなるべし、