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重修本草綱目啓蒙
八/山草
貝母 はヽくり(○○○○)〈延喜式〉 はヽぐさ(○○○○)〈古歌〉 はるゆり(○○○○)〈種樹家〉 あみがさゆり(○○○○○○) 一名瓦壟斑〈輟耕録、事物異名、〉 空菜〈薬性奇方〉 商草花〈秘伝花鏡〉漢種今諸国に多く種ゆ、〓後大江山には自生ありと雲、冬月の末宿根より葉お生ず、初生は巻〓(おにゆり)の葉に似たり、一科に叢生す、老根の者は春円茎お抽で高さ一二尺許、二三葉相対して生ず、漸く狭細にして石竹葉の如し、梢葉は端に一線ありて巻曲す、三月に茎の末葉間ごとに花お倒垂す、形風鈴に似て小く白頭翁(おきなぐさ)花の如し、長さ七八分、径り六分許、六弁、外は淡黄色、内は紫色の網の紋あり、実お結ぶ者希なり、夏に入て苗枯る、歳ごとに子根繁殖す、実お結ぶものは根枯る、実は百合実の形の如にして八稜あり、稜ごとに羽起る、内子軽薄にして百合子の如し、嫩根は小くして半夏の如し、薬用に佳なり、之お川貝母と雲、老根は大にして水仙、或は大蒜(にんにく)の如し、集解、容曰、似蕎麦葉雲雲、是は蕎麦葉貝母(○○○○○)なり、山中に多し、俗名がわゆり、〈京〉えいざんゆり、〈同上〉てんぐゆり、〈同上〉ばかゆり、みづゆり、ねずみゆり、ごぼうゆり、〈筑前〉しかヽくれゆり、〈同上〉うばゆり、〈阿州、勢州、〉やまかぶら、〈加州〉かしはゆり、〈江州〉めぎわ、〈河州〉めぐわい、〈同上〉はゆり、〈濃州、若州、〉さるたひこ、うばがゆり、〈勢州〉やまかぶ、〈越後〉ぎわい、〈播州〉やヽ、〈備後〉やまぐわい、〈勢州〉その葉初出小なるものは蕎麦葉に類す、老葉は大にして牛蒡の葉の如くして毛なし、長さ一尺許、厚くして光沢あり、又葉の紋脈紫色なるものあり、春宿根より一尺許の円茎お生じ、その末に五七葉密に互生す、対生には非ず、又其上に長茎立のびて、六七月茎梢に花お開く、形麝香百合の如し、六弁にして長さ三四寸許、横に向て開く、外は白くして微緑色お帯ぶ、内に深紫色の斑点あり、花お開く時、葉已に枯てなし、故にうばゆりの名あり、肥地に植れば高さ五六尺許に至り、花も多く開く、根は巻〓或は百合の根の如し、野人取りて食用とす、故に山かぶらの名あり、実は百合実に同じ、今此草お象山貝母と為ものは非なり、増、一種大葉の貝母(○○○○○)あり、初春宿根より苗お生ず、脚葉は小葉の者と同じくして、正中より茎お生ずること、甚だ太くして、高さ二三尺、茎に葉互生して梢に至れば二葉或三葉対生す、梢葉は漸く細く、瞿麦葉に似て末は糸の如し、茎頂に四五輪もあつまりて花お開く、形色共小葉の者に同くして大なり、即本草彙言の象山貝母なり、又和産の貝母あり、深山幽谷に生ず、高さ僅に五六寸、苗葉の形小葉の貝母に似て細小なり、茎葉共に茶色お帯ぶ、二三月花お開く、その花必ず横に向ふて倒垂せず、根の形相似て小なり、四月に至て苗葉共に枯る、阿州深山に産す、