[p.1027][p.1028]
重修本草綱目啓蒙
八/山草
山慈姑 あまな(○○○) とうろうばな(○○○○○○) とうろん(○○○○) むぎくはい(○○○○○)〈麦地に生ずる故名く〉 まつばゆり(○○○○○)〈江州〉 むきぐはい(○○○○○)〈根に皮ある故名く、以上京、〉 あまつぼろ(○○○○○)〈同、鳥羽村、〉 あまいも(○○○○)〈同上、加茂、〉 なんきんずいせん(○○○○○○○○)〈同花家〉 はるひめゆり(○○○○○○)〈同上〉 すてつぽう(○○○○○)〈筑前〉 かたすみら(○○○○○)〈肥前〉 すみら(○○○)〈同上〉 つるぼ(○○○)〈〓波〉 うぐひす(○○○○)〈摂州〉 一名山茨菰〈百一選方〉 金灯籠〈医灯続〓、古今医統、寿世保元、〉 馬無乙串〈郷薬本草〉 紅灯籠〈附方〉 鹿蹄〈正字通〉原野陽地に生ず、正月旧根より葉お出す、年により十二月にも出す、大葉小葉あり、土地の肥瘠に因る、別種にあらず、大葉は長さ一二尺許り、水仙の葉の如し、花も小なり、小葉は二三寸許り、綿棗児(さんだいかさ)葉の如し、花も小なり、又一種花の最小なるものあり、一根一葉の者は嫩根なり、二葉の者は老根なり、みな葉は白色お帯ぶ、根の老たるものは、二葉の中間より一両茎お抽づ、高さ五六寸許、其端に細小葉二三お対生し、上に一花あり、肥地のものは二三花、大さ七八分、六弁、白色外に深紫条あり、日光お得て開き、夕に至れば収る、中に黄色の蘂あり、数日の後弁脱す、その実三角大さ二三分、はつゆりの実に似て四月に至り苗枯る、根は円かに小くして沢蒜(のびる)の根のごとし、堀出せば外に白き綿あり、根お包む駿州には淡紅花なるあり、此も花弁に紫条あり、和州の下市には黄花なるものあり、苗の高さ八九寸、三葉許互生し、茎の末に花多く簇生す、外は緑色内は黄色、其中に黄蕊あり、開て大さ五分許、紫金錠は〈医学入門、万病回春、外科正宗、〉即附方の万病解毒丸なり、その主薬は此山慈姑なるに、今石蒜お代用るもの誤なり、蔵器の説に葉似車前と雲は車前葉山慈姑(○○○○○○)なり、和名はつゆり、かたかこ〈万葉集〉猪舌、〈万葉抄〉香子、〈同上、〉かヾゆり〈江戸〉ぶんぐいゆり、かたばな、〈佐州〉かたくり、〈南部〉ごんべいる、〈日光〉ごんべいろう、〈同上〉かたぐり、かたこ、かたゆり、深山に多く生ず、葉の形萎蕤(あまとろこ)葉に似て厚く、白緑色面に紫斑あり、嫩根のものは隻一葉なり、年久ものは二葉となる、二葉のものは二三月両葉の中間に一茎お抽づ、高さ五六寸、頂に一花お倒垂す、大さ一寸半許、六出淡紫色、蕾は紫色深し、形山丹(ひめゆり)花に類して弁狭細、その末皆反巻す、又希に白花なるものあり、花謝して実お結ぶ、大さ三分許、形円にして三稜あり、その色亦白緑なり、根の形葱本に似て白色性寒お喜、故に東北の地方に産するところの者、苗根最肥大なり、土人その根葉お採り享熟して食ふ、又根お用て葛粉お造る、法の如く製して粉お取る、甚潔白にして葛粉の如し、餅となして食ふ、かたこもちと呼ぶ、奥州南部及和州宇陀より此粉お貢献す、かたくりと雲ふ、古説に此草お旱藕とするは穏ならず、