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採薬使記
上/奥州
重康曰、奥州南部にかたくりと雲ふ草あり、其形ち百合に似たり、花もゆりに似て紫色、正二月比花咲く、其根おとり葛(くず)の如く水飛して水にてねり餅となし食ふ、葛よりは色白く、甚だみごとなる物となり、土人専ら久痢に用ひて、益ありと雲ふなり、光生按ずるに、かたくり江東所々に生ず、一名初ゆり、一名姥ゆり、一名ぶんたいゆりとも雲、正月頃花咲く、故に初ゆりと称す、花萎(しほ)みて後に葉お生ず、花のとき葉なき故に姥ゆりともいふ、葉の形ち車前草の葉に似たり、葉の面に黒き斑あり、是れ万葉集及び新撰六帖に詠ずる所の堅香子と雲ふものなり、或曰、本草紫参の下に載する旱藕なるべし、