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農業全書
四/菜
葱〈和名きと雲、きは一字なる故、後世に、ひともじと雲、わけぎ、かりぎ、ねぎなど雲も、本名きと雲故なり、〉葱は冬お大葱と雲、春夏お小葱と雲、春夏葱は糞培手入次第に、いか程科(かぶ)の内お分取ても、又もとのごとく数多くさかゆるゆへに、わけぎと名付るなるべし、大葱はたねお取べき分は、根のふかきお好まず、大かたに培ひ、よき程に肥しおき、三月よく実り、たねの黒き時取てよく干し、もみて取べし、二三日も筵などおほひ、少むしおきて取出し、日に干してうちとるもよし、苗地の事、旱にいたまざる物かげのしめり気ありて、少ひきめなる細沙地およくこなし、糞おうち乾しさらしおきて、四月蒔べき前、猶も細かにこなし、塊ちりあくたなど、少もなくして、畦のはヾ三尺ばかり少深くがんぎお切、さて河の細沙と、灰とに、小便おうちさらし置たるにたねお合せ、およそ一畝の畠ならば、たね三升ばかりの積りにて蒔べし、がんぎは間おいかにもせばく切べし、生そろひては、小き熊手にて、畦の高き所お、かるくかきあざり、草少もなくしおき、旱せば、水お畦の溝より夕方入て、暁は落すべし、水の便りなき所ならば、高さ一尺ばかりに棚おかき、筵にてもこもにても、又は蘆すヽきのすだれにても、おほひて日おふせぐべし、又四月たねおまく時、がんぎお深く切、塩気のある沙糞などお下にしきて、たねお蒔、たなおほひ少厚くしおきて、上よりもわらの灰おおほひ置たるは、少の旱にては、かれざる物なり、又四月たねおもみ取て、よく肥しこしらへ置たる苗地に、其まヽ早く蒔たるは、早く根にも入ふとるゆへ、六月極熱の時分、上は少々痛めども、大かた根まで枯る事はなき物なり、随分手おつくし早く蒔て、つゆの中によき程さかへふとれば、大概のかはきたる地にても、日おほひなくて苦からず、又葱たねは、蒔時分うるほひなければ生(おふ/はえ)りかぬるゆへ、うるほひお見合せて蒔べし、又蒔時五穀お何にても炒て、たねと少合せてまけば、よく生る物なり、同じく移しうゆる地の事、此類何れも細沙の肥深き地よし、ねばく堅き土に宜からず、地お深く耕し、糞お多くうち極て干晒し、数遍かきこなし熟しおきて、七月中旬八月初め、うるほひお得て、苗お取うゆべし、大葱はうへて後、小便お度々そヽぐべし、鰯人糞或粉糞の類みないむ、又はちりあくたなど、少も畦中へ入べからず、凡て小便の外の糞お甚いむ物なり、畦のはヾ三尺五寸四尺ばかりにして、がんぎお一尺余りに極て深く切、苗の大小おえりそろへ置、四五本お一手にとりて、一かぶとし、六七寸間お置て、三尺五寸の畦ならば、五かぶ程うゆべし四韭、三葱とて、にらは四本、葱は三本づヽといへども、大葱は、子さかざるゆへ、三本は少し、又うゆる時、がんぎの底に、小便おうちたる灰お敷てうゆれば、よくさかゆるなり、うへ付てほどなく有付ものなれば、熊手にて間おかきあざり、草少もなくすべし、有付て後、五七日に一度小便お根にそヽぎ、折々間おかきやはらげては、小便おかくべし、白みの長くみ事にて、味のまさらん事お好まば、地深きよき畠お、がんぎお一尺あまり深くほり、其間二尺余りにして能苗おえらび、一かぶに四五本、かぶの間お六七寸ばかりにうへがんぎの底にて、根に土お二三寸ばかりもかけ、よく有付て後、根に小便お少そヽぎては、土お一寸余りかけ、又五六日過て小便おかけて、前のごとく土おかくべし、凡五六日に一度づヽ、かやうにし、十度も其上もかけて、六七十日に余りては、がんぎのみぞお皆うづみ、其後も猶根に小便おそヽぎ、少づヽ土およせ、後にはねぶかの根、却て次第に高くなる様にすべし、〈凡園菜にかくる小便は、久しく桶に入おきて、次第に久しきより用べし、〉念お入かくのごとくし、ぜん〴〵に土およせ、小便おかくれば、勝れたる能地にては、白み一尺四五寸程も有、〈◯中略〉わけぎ、是に春と夏との二色あり、又かりぎとて細くして、韭おかるごとく、度々かりて用るものあり、先春葱おうゆる事、是は三四月には、葉は枯てつぶたちたる根、土中にあり、夫おほり出し、其中にて実りのよきお日に干、よく干たる時、ふごなどに入て、火おたく上につり置、七八月畦作りし、是もがんぎお少深く切、大葱よりは少しげくうへ、糞水お幾度もそヽぎ、中うち芸り、畦中おきれいにしておくべし、是おわけぎと名付る事は、糞養手入によりて、段々いか程わけ取ても、又もとよりもしげりさかゆる故なり、又秋うへて十月苗よくしげりさかへたるお、悉くほりおこし、一かぶお二つ三つにも見合せ分て、畦作り右のごとくしてうへ、灰お多くかけ、糞水おさい〳〵そヽぎ、手入およくして、春段々分取べし、正二三月の間、いか程分とりても、又々さかへしげる事かぎりなし、三月尽て枯て根に入ものなり、葉あかく成お、践付おきて、根よく入たる時、たねにとるべし、夏わけぎもうゆる法前に同じ、灰糞お多く用ゆべし、是は春に成て分てうゆべし、四五月さかへて六月枯る、是根土中にありて、春に成て新葉青く出て夏さかゆ、春葱にくらぶれば、細く味も劣れり、蕎麦切にいれては、是にしく事なし、三月分てうゆべし、かりぎは韭のごとくうへ付にして、年中かりとり、灰小便おかけおくべし、夏葱よりなお細し、