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源氏物語
二/帚木
こえもはやりかにていふやう、月比ふびやうおもきにたへかねて、ごくねちのさうやくおぶくして、いとくさきによりなん、えたいめん給はらぬ、まのあたりならずとも、さるべからんざうじらはうけ給はらんと、いとあはれにむべ〳〵しくいひ侍り、いらへになにとかはいはれ侍らん、たヾうけ給はりぬとてたちいで侍に、さう〴〵しくやおぼえけん、この香うせなん時に、たちより給へと、たかやかにいふお、きヽすぐさすもいとおし、しばし立やすらふべきに、はた侍らねば、げにそのにほひさへ花やかにたちそへるもすべなくて、にげめおつかひて、 さヽがにのふるまひしるき夕暮にひるますぐせといふがあやなさ、いかなることづけぞやと、いひもはでず、はしり出侍ぬるにおひて、逢ことのよおしへだてぬ中ならばひるまもなにかまばゆからまし、さすがにくちとくなどは侍きと、しづ〳〵と申せば、君だちあさましと思て、そらごとヽてわらひ給、