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古今要覧稿
草木
やますげ 〈麦門冬〉やますげ、〈本草和名〉 按にこの葉細小なりといへども、その形すこぶる山菅に似よりたるお以て名付しなるべし、又按に山菅は小葉の麦門冬にして、大葉の麦門冬は、天和の比より以後の物なれど、物によりては、後世より却て古のくはしき事いと多ければ、延喜の時には、この大葉のものもありけんお、山菅と称せしにやあらん、蛇の鬚、〈用薬須知、物類品隲、〉尉の鬚、〈和漢三才図会〉竜の鬚、〈江戸俗称〉麦門冬、〈出雲風土記、延喜式、〉按に此根穬麦に似たるお以て、麦門冬と名付たるよしは、既に弘景の説にみえたり、されどもそれにては、麦字の意は詳なれど、いまだ門冬の義おしらず、今按にこれお門冬といふものは、天門冬の門冬とおなじく、即門冬二合の音髦の義にして、此草細根極めて多く、形状髦の如くにして其中に穬麦のごとき、連珠おなすに塊あるによりて麦門冬とは名付しなり、或其葉叢生髦の如く、また麦のごとしといへるにても、その義また通ずべし、然るお時珍の説に、麦鬚曰〓此草根似麦而有鬚、故謂之麦〓冬、俗作門冬、便于字也といへど、字彙に〓は赤苗嘉穀、今赤梁栗とありて、麦鬚の意見へず、時珍天門冬お釈して、草之茂者為〓、此草蔓茂而功同麦門冬、といへるものとあはざれば、麦鬚お〓といへるはうけがたし、