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重修本草綱目啓蒙
十一/湿草
麦門冬 やますげ(○○○○)〈和名抄〉 やぶらん(○○○○) むぎめしばな(○○○○○○)〈勢州〉 かうがいさう(○○○○○○)〈加州〉 総一名安神隊杖〈輟耕録〉 忍陵〈群芳譜〉 不死薬〈事物異名〉 雉骨木〈採取月令〉 雉鳥老草〈同上〉 冬児沙里根〈村家方〉 麦冬〈通雅〉 麦門〈方書略称〉 麦文〈同上〉 麦門東〈永州府志〉 大葉者一名珍珠蘭〈通雅〉 大葉門冬〈群芳譜〉 大杭冬〈幼幼集成〉 杭棟冬〈同上〉 小葉者一名沿階草〈江西通志〉 向子草〈同上〉 百霊草〈楊州府志〉 護門草〈同上〉 護階草〈江都新志〉 秀墩草〈秘伝花鏡〉是に大小葉数種あり、大葉の者おやぶらんと雲、樹下竹陰及路傍に多く生ず、葉の闊さ三四分許、長さ一二尺、厚くして縦道多し、面は深緑色背は浅し、一根に多く叢生し、冬枯れず、夏に至て叢葉中数茎お抽づ、高さ一尺余、小花数多く綴り、長穂おなす、花は六弁淡紫色、綿棗児(さんだいがさ)の花に似たり、又白花の者あり、倶に花後実お結ぶ、正円にして大さ南天(なんてんの)燭子の如し、秋に至り熟して黒し、花は数多けれども、実お結ぶこと少し、又狭葉のやぶらん(○○○○○○○)数品あり、その海島に産するものは、葉闊さ七八分、長さ尺許にして光あり、花実は異ならず、又漢種の麦門冬も大葉にして海島の産に略同して長し、又一種種樹家におきなぐさ(○○○○○)と雲あり、一名音羽らん、形状はやぶらんに異ならず惟葉白色にして美し、然れども夏已後は漸く緑葉に変ず、又一種緑葉にして白色の斑文あるあり、これおべつこうらん(○○○○○○)と雲、又琉球の産にのしらん(○○○○)と雲あり、葉長さ三尺許り、闊さ四五分、色浅くして光あり、花穂の茎形扁くして葉の如し、花は白色、大さ五分許り、初は茎短し、花開くより漸く長くして葉と等し、実も亦大なり、熟して碧色、葉間に雑り下垂す、小葉の麦門冬(○○○○○○)はじやうがひげ、やぶみ、ふきだま、〈泉州〉てつぽうのたま、〈江州〉かしらご、じやのひげ、〈共に同上〉じゆずだま、〈播州〉りうのひげ、〈筑前〉りやうのひげ、〈江戸〉おんどのみ、〈志州〉ぢいのひげ、〈雲州〉たつのひげ、〈奥州加州〉いんきよのめだま、〈加州〉づくだま、〈丹波〉おどりこ、〈勢州〉おふくだま、〈同上〉はづみだま、めつちよひがら、〈予州〉路傍に多し、人家檐滴の処に多く種ゆ、葉の闊さ一分余、長さ一尺余、年久きものは二三尺に至る、一根に多く叢生す、花は淡紫色、茎の長さ四五寸に過ぎずして花実倶に少し、実熟すれば碧色、春に至りて猶あり、根は大葉小葉倶に連珠おなす、薬用には心お去る、薬四にあるは皆和産なり、紀州より出すお上品とす、形円く大にして心お去る、是大葉の根なるべし、芸州広島より出すは、形長く小にして心お去らず、是小葉の根なるべし下品なり、集解に根肥大者為上と雲、希に漢渡あり、長さ一寸許り、闊三四分にして両頭尖れり、漢種及海島の産は舶来と同じ、増、今薬店へは紀州芸州より多く出す、紀州より出るものは中心お抽去り、竪に圧して其状円し、又近年心お去て圧捏せずして長き者あり、共に色白くして実す、上品なり、芸州より出る者は心お取らず、生のまヽ乾したる故形長し、下品なり、又或は赤く或は黒くして、実せざる者は下品なり、他薬は皆根お取り日に乾す、麦門冬は日に乾せば乾涸す、故に根お取り火にて炙り、陰乾すれば肉潤にして色白し、其芸州の産は小葉の者也、一種鶏尾蘭と雲あり、葉の幅七八分、長さ一尺、光沢あり、葉の生ずる所の形鶏尾の如く撓んで、両方へ互に出づ、夏白花お生ず、穂に支あり、形尋常のものと同じ、一種、紀州泉州等に多く栽て根お取り、或は池塘の周囲に栽て、土砂の壌るヽお防ぐ、その葉至て細長きものあり、葉の形大葉の者に比すれば狭く、小葉の者に比すれば微く広し、深緑色にして四時枯れず、陽地に栽ゆるものは葉短く、陰地或は盆に種ゆれば、長さ三尺許に及ぶ、夏秋の間別に茎お生じ、穂に成て花お開く、綿棗児(さんだいがさ)の花に似て小く、淡紫色にして六弁あり、花謝して細実お結ぶ、これ秘伝花鏡の書帯草一名秀墩草なり、この根薬用に上品とす、即紀州より出る所のもの是なり、小葉のものはこれに次ぐ、大葉のものは、その根連珠少なく、緊実ならずして却て下品なり、