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冠辞考
四/須
すがのねの 〈ながきはる日お おもひみだれてねもころ〉万葉巻十に、菅根乃(すがのねの)、長春日乎(ながきはるひお)、巻四に、菅根之、念乱而(おもひみだれて)雲雲、こは山菅なり、糸の如き根の多く長く這(はひ)乱る物なればさる語に冠らせたり、巻十一に菅根、惻隠君(ねもころきみが)、結為(むすびてし)、我紐緒(わがひものおヽ)、解人不有(とくひとあらめや)、巻十二に、菅根之、惻隠々々(ねもころごろに)、照日(てらすひも)、乾哉吾袖(ほさんやわがそで)、於妹不相為(いもにあはずして)、こおたヾ根とのみ重ねつとするはことたらず、根も凝(こり)とこそつヾけたれ、巻十三に、菅根之、根毛一伏三向凝呂爾(ねもころごろに)、吾念有(わがもへる)、巻三に、足日木能(あしびきの)、石根許其思美(いはねこごしみ)、菅根乎(すがのねお)、引者難三等(ひかばかたみと)、標耳曾結焉(しめのみぞゆふ)、などよめるお思へ、さて此菅は山菅なれば、石根などに生るはもとよりにて、大かたも根多く延て、且根に丸き物さへあまた有故に、こりて曳がたきなり、山菅は和名抄に麦門冬〈夜麻須介〉てふにて、集中には右の如く、すげとのみよめるも、多くは山菅なり、