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重修本草綱目啓蒙
十三/毒草
藜蘆 しゆろさう(○○○○○) 日光らん(○○○○) 一名山椶〈薬性要略大全〉 藜閭〈本事方〉 朴草〈郷薬本草〉 朴鳥伊〈採取月令〉 藜蘿〈三才図絵〉江州伊吹山に多し、又野州日光山殊に多し、故に種樹家にて日光らんと雲ふ、春宿根より苗お発し数葉叢生す、葉闊さ五六分、長さ一尺許、深緑色、縦に皺多くして椶(しゆろの)秧に似たり、年お経たる者は葉漸く闊く三四寸に至り、えびねの葉の如く、初出の葉細きに異なり、夏月別に一茎お抽づ、長さ二三尺小葉互生し、上に枝お分て花お開く、紫黒色形白薇(ふなはらの)花に似て、大さ三四分六弁、臭気あり、後に短扁莢お結ぶ、中に小実あり、又黄花のもの白花のもの希にあり、この根葱根に似たり、故に集解に葱白藜蘆と雲ふ、根下に粗き鬚根多し、晒し乾せば味辛薟、蘆頭に黒毛あり、椶毛の如くして苗本お包む、古渡に此の如く椶毛にて包むが如きものあり、今は渡らず、今渡る者は毛にて包まずして根大なり、これ本草原始の蒜藜蘆(○○○)なり、種樹家にばいけいさうと呼ぶ、予州にては蠅のどくと雲ふ、江州比良山中に多し、春早く宿根より芽お出す、故にゆきわりと雲、又ゆきわりの藜蘆とも雲、円茎高さ三四尺葉互生す、形萎蕤の葉に似て大なり、縦文多し、茎上に穂お出こと一尺許、枝お分て花お開く、形日光らんの花に似て、大さ小銭の如し、五弁にして梅花に類す、故にばいけいさうと名く、色白くして微緑お帯ぶ、臭気あり、この根日光らんより塊大にして、蒜(にんにく)根に似て小く、蘆頭に椶毛なし、根下に粗き鬚多し、味辛く黄白色、飯に雑へ蠅に飼へば死す、故にはいのどくの名あり、古へより藜蘆お誤りておもとと訓ず、故に和方書に藜蘆と雲ふは、皆おもとお指す、おもとは万年青にして、藜蘆の類に非ず、〈◯下略〉