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重修本草綱目啓蒙
十三/毒草
藜蘆〈◯中略〉増、〈◯中略〉近年万年青(○○○)お愛玩するもの多し、愛するに随て其形お異にし、其形の異なるに随て其名お異にす、其名悉く花戸鄙夫の言に出て、的証するに足らず、亦医事に関係せずと雖ども、姑く其名称お贅して、多識の一端に備ふ、都の尉(○○○) 文化年間薩州より其苗お出す、葉細長くして厚く、粉緑色にして悉く直立す、始め新葉生ずる時は葉青くして、出でそろいて後銀辺(ふくりん)おなす、その趣焼葉に類すれども、銀辺おなすこと焼葉より深し、これ万年青中の最とも上品なるものなり、盆に栽て愛玩するに堪たり、 宗碩(○○) 葉大にして厚く、本細くして末広し、葉の末垂れず、東都木村宗碩が家に始て其種お出す、故に名く、これに一種葉に白斑点あるものあり、斑点の趣に因て各称呼お異にす、黄斑点のものあり、虎斑宗碩と雲奇品とす、 久和加多(○○○○) 葉大にして厚く末尖れり、然れども宗碩の如く直立せず、葉に皺文多く、其葉左右に分れねぢれたる如くに成て、くわがたの形の如し故に名く、これに一種江戸久和加多と雲ものあり、葉微しく小にして皺文少し、下品とす、又一種斑入のものあり、又葉短く幅広くして薄きものお、朝鮮久和加多と雲ふ、 名古屋丸(○○○○) 形状久和加多と同じ、隻葉のさき尖らずして円きお異なりとす、 翁(○) 尋常の万年青の如にして葉の色淡く葉さき垂る、初夏新葉お生ず、始め正白色にして漸く葉の本より半に至るまで青く、半より末白くして、葉端又微しく青し、凡て万年青は歳ごとに必ず三葉お生ずれども、此の品は夏以後又二葉お生ず、後に生ずる葉は全く淡緑色なり、葉の色の変りしこと、麦門冬類の翁草に同じ、故に翁と名く、 村雲(○○) 尋常のものより微しく大にして厚く、深緑色にして葉さき垂れず、処処に白斑あり、又淡黄斑のものあり、虎斑と称す、これに一種斑点多くして、美なるものお琴の浦と名け珍とす、 ちりめん(○○○○) 葉細く淡緑色にして縦に皺文ありて白条多し、これに一種銀辺のものあり、やき葉ちりめんと雲ふ、 蘭おもと(○○○○) 葉厚くして細く、長さ三尺許に至る、葉のさき鋭に尖り、葉に光沢多し、花実普通のものに異ならず、 児おもと(○○○○) 万年青に類すれども、僅に三五寸に過ぎず、葉薄くしてさき尖り、数葉重畳す、実お結ばず、万年青の類なるや否お知らず、 豆蔵(まめざう/○○) 一名朝鮮おもと、又ひめおもととも名く、形状全く万年青にして、葉の長さ僅に三五寸、花実あり、共に小なり、盆に栽へ愛玩すべし、 大名筋(○○○) 葉細くしてさき尖り、光沢ありて潔白の直条あり、立のびて生ずれども、葉の本白らけ柔かなるゆへ倒れ易し、葉辺巻てねぢれたる形の如し、異生なり、此の品変生し易し、阿磨の川、布引、久安寺等、皆此品より変生す、 阿磨の川(○○○○) 大名筋より変生す、正しく左右へ葉お生ず、大名筋より短く、柔かにして地にたおれ布く、縦に白条多し、 久安寺(○○○) 阿磨の川の形の如くにして、葉微しく大なり、淡黄色の縦道あり、 筑前(○○) 久安寺の形に似て、黄色にして白条雑り生ず、久安寺より白条多し、 布引(○○) 久安寺に似て葉細く、能くのびて葉さき少しく外へ曲る、葉の直立するお上品とす、 雪山(○○) 村雲の形の如にして直上す、白条ありて雪白なり、上品とす、 永島(○○) 雪山に似て葉細くして長し、直立はせざれども、葉さき垂れず、間道至て潔白なり、上品とす、江都の人専ら此品お愛玩す、 焼葉(○○) 葉の色粉緑色にして、銀辺おなす、故にへりとりおもととも雲、二種あり、一種は葉細長くしてさき垂れず、上品とす、一種は葉の幅広くして葉さき垂る、下品とす、又銀辺にして白条あるものあり、又斑入のものあり、又淡紅辺のものあり、あかふくりん、一名べにふくりんと雲、又金辺のものあり、黄ふくりんと名く、赤実の者あり、黄実のものあり、 片葉(○○) 半片は青く、半片は白し、大名筋或は村雲より変生す、又銀辺にして片葉の者あり、ふくりん片葉と名く、 竹おもと(○○○○) 蘆頭竹節の形の如くして、五寸或は七寸許立のびて生ず、 斑入爪白銀辺(ふいりつまじろふくりん)たてじま等あり、其葉直立せず、 玉花葉(○○○) 葉厚く光沢ありて玉花蘭のごとく、葉さきのみ銀辺おなす、又爪白とも雲、奇品なり、 しまおもと(○○○○○) おもとの葉に間道あるものお、凡てしまおもとヽ雲、品類殊に多し、大葉立葉のものお筑前じまと雲、又伊勢じまあり、間道潔白なれども、葉薄くして細し、又しかみじまと雲ものあり、葉厚く色濃くして皺あり、 白むく 葉潔白にして青みなし、これ村雲より変生す、 青ふくりん(○○○○○) 葉しまおもとの形にして間道潔白なり、青辺おなす、世俗奇品とすれども、これ変生に属す、 芭蕉(○○) 葉の幅広く大にして長く、芭蕉葉の趣おなす故に名く、然れども葉柔弱にして上品にあらず、 黄実おもと(○○○○○) 葉の形尋常のおもとの如くにして細く、実熟して黄色なり、根お分ち栽ゆべし、実生は変じて赤実のものとなる、又黄実の斑入あり、 白実おもと(○○○○○) 黄実おもとの形にして、実熟して淡白色なり、一種熟して潔白なるお水晶実と雲、然れども未だ其潔白なるものお見ず、 青実おもと(○○○○○) 二種あり、一種は実熟して深緑色に至る、これお花戸に真の青実と雲、一種は熟して微しく褐色お帯ぶ、かばみと名く、下品とす、其余花戸にほうとく、らしや、いもば等の名、五七品ありと雖ども、悉く変化に属して、久く其形お存すること能はず、故にこヽに略す、