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草木六部耕種法
十/需花
万年青は陰地の湿気ある処に宜し、根は甘薯の如くにして、側に小根おも生じ、培養お精くすれば能く茂生す、此物に金覆輪、銀覆輪、雪山(せつさん)、曙、鍬形、大名、長島、南京等の名あり、南京は小にして三寸より長きは無し、花も無く実も無き者なり、作法は何れも同じ、植地は細沙交の地お好む、必しも土色に拘はらず、肥養は胡麻油粕お第一とし、干鰛、厨下溝泥、或は豆肥水及び米泔水お澆ぐも宜し、実お蒔も根お分も、皆能く活者(つくもの)なり、紫万年青は別種の物たり、故に其形は似たりと雖ども、絶て同種に非ず、茎は竜舌草(あたん)に似て、葉は文珠蘭の如く、其表面は緑色にして裏面紫色なり、七月下旬に葉間より紫色にて、蛤蜊の如くなる莟お抽て、小にして白色なる六弁の花お開き、根側より蘖お生ず、其蘖芽お分植れば即ち活(つ)く、元来此物は文化十三年に、琉球国より渡り、大坂にて紫金蘭と名て珍賞せり、今は世に頗多し、暖地の産なるが故に、寒に傷むこと甚し、夏中は時々盛養水お澆ぐときは能く成長す、十月より塘窖中に温養し、三月中旬に至て出すべし、若これお霜に当るときは、即ち腐り消失る者なり、