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農業全書
山/山野菜
薯蕷うゆる法、細沙の地、山ごみ〈田舎にてはあずと雲〉など、いか様和らかにして、深く牛蒡など作りてよき地心、少つまり心の地に宜し、畠に長く溝お掘、深さ広さ各二尺ばかりにして、牛馬糞と土と合せ、溝の中に半分過入、山のいもの肥たる長き皮の薄きおえらび、三四寸に折、溝の中に五六寸間おおきて横にねせ、其上より又糞お土とかき合せ入る事三四寸ばかりおほひ置、旱せば水おそヽぐべし、但甚うるほひの過るはあしヽ、山薬は人糞お用る事お嫌ふと雲ならはせり、されども久しくよくかれたるお、わきよりかくるはよし、つるの出るお待て、竹や柴などお立て、是にまとはせ、或棚おかまへて、はひまとはせ、又多く作るには籬おゆひて、まとはするもよし、わきお削り、草あらば去べし、求めのなる所ならば、油糟、鰯などの糞お調へ置、側お少ほりくぼめて、次第に多く入べし、糞し養ひによりて過分に利潤ある物なり、霜ふりて掘取べし、麦おまかざる地ならば、霜月の後までもおきて掘取べし、遅き程根よく入物なり、〈◯中略〉又山城にて、薯蕷お作る法、細沙のよく肥たる地の湿気なきお、いか程も細かにこなし、何にても先作りて、さて来春山薬お作るべき前の冬よりは、麦お作らずして、よく〳〵寒耕し、こなしおき糞おも多くうち、度々犂かへし、熟しおきて、畦お作る事、麦畦の広さのごとく、竪にても、横にても、筋お広く切、筋と〳〵の間、凡二尺ばかり、さてたねは、大きなる蘆頭の細長き所ばかりがよけれども、多く作るには求る事成難き故、肥たる太き山薬お四五寸ばかり、竹刀にて切折て、筋の中に横にふせ、其間一尺程おきて、両方より土おおほふ事、一寸余なり、同うゆる時分の事、二月初よし、遅くうゆるは、芽立出て痛む事あり、同じく糞お用る事、芽立の土お出る時、油糟にても鰯の粉にても、芽のきは近く、一二寸おきて、鍬にて土お両方へかきのけ、能ほど入べし、勝手次第糞の多き程よし、其後土おおほひおき、又山草にても馬屋ごえにても、多くおほひ置べし、是は日おほひのためにもなるゆへ、薄ければ根に日とおりて痛む事あり、其後とても、水糞などお度々かくべし、扠つる漸く出る時、竹にても柴のくきにても、半間に二三本づヽさし、横ぶちお二とおりゆひ、まきつかせおくなり、同掘取時分の事、九月の末十月の間、わきより溝お立、おれざる様にほるべし、急ぎてあらくすれば、必おるヽ物なり〈◯中略〉又つくねいもおうゆる法、是は常の畠など、屋敷の内にても、其まヽうゆれば、土竜のよく食する物なるゆへ、瓦お廻りに立、その中に糞土お一盃入、たねお指三つばかりのふとさに割て、五七寸も間お置てうへ、其後もわきより、能こえお入べし、牛馬糞など土の和らぐ物おおほひおけば、その瓦の内残らず皆いもになる物なり、土竜のくはざるふせぎおよくすれば、是又多く作りて厚利の物なり、凶年飢饉おも助る事、穀に劣らぬ物にて、性よく人に薬なり、取分手入次第にて、凶年おもいとはず、甚益おほく、損なき物なり、諸国にても、城下ちかき所、又は人家多き大邑の辺にては、多く作りて、利潤ある物なり、猶つねの料理にも、品々用ひてよし、