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庖厨備用倭名本草
一/質疑
甘藷、多識篇につくねいも、或人曰、此和名は穏当ならず、江戸ところと雲あり、恐くは是甘藷なるべし、他日老甫に江戸ところお問に、老甫曰、江戸ところは、常のところの如にして鬚多く生じ、其長さ一二尺あり、肉色黄にして味あしヽ、灰湯にて煮熟すれば煮栗の如し、又つくねいもお問に、老甫曰、其葉の形は山のいもの葉と同して、色うすくやはらか也、其根の色も、山のいもの色と同して、山のいもおつくねたるが如し、山のいもの根は牛蒡の如く長し、是により長いもつくねいもと雲わけたりと雲、本草集解に、甘藷は薯蕷と雲、或は根葉ともに芋に似たり、其根は芋魁の如し、故に芋類と雲、然に又本草説に、性味功用は薯蕷に同といへり、是に依てみれば、甘藷は江戸ところにあらず、つくねいもなること疑なし、其根の芋魁の如しと雲は、是土地のかはりなるべし、漢土の萊菔は根の形円也と本草にみえたり、日本の萊菔の根は長し、又西国の蕪菁根は円也、江州のかぶらは稍長し、加州山中に一種長きかぶらあり、是皆土地のかはり也、漢土の甘藷は芋魁の如く、日本の甘藷はつくねたる如きも、土地のかはりなるべし、甘藷はつくねいも疑なし、