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重修本草綱目啓蒙
十三下/毒草
射干 ひあふぎ(○○○○)〈京〉 からすあふぎ(○○○○○○) うせん(○○○)〈烏扇は即漢名なり〉 みちきり(○○○○)〈伯州〉 一名鬼箭草〈江都新志〉 秋胡蝶〈秘伝花鏡〉 地扁竹〈鎮江府志〉 麝乾〈痘科鍵〉 夜干〈本事方〉 扁筑〈通雅〉 玉燕〈花暦百詠〉山中に自生あり、家甫にも多栽て花お賞す、鳶尾の如き長葉、互に斜に並び扁く生ず、扇お開たる形に似たり、その中心に一茎お抽づ、六七月に至て高さ三四尺、梢に多く小枝お分ち花お開く、大さ一寸許、六弁、弁細長黄赤色にして紫斑点あり、其紅色のものは、べにひあふぎ(○○○○○○)と雲、黄色のものは黄ひあふぎ(○○○○○)と雲ふ、共に紫点なきものお賞す、薬には尋常のものお用ゆべし、集解に陶弘景又別有射干相似而花白と雲、これは胡蝶草にしてしやがのことなり、射干に白花なるものはなし、朱震亨紫花者と雲は、是鳶尾にしていちはつなり、次に本条あり、紅花者非と雲ふは反て誤れり、紅花のもの即射干なり、李時珍は射干鳶尾お混じて一物とす誤れり、紫胡蝶はいちはつのことなり、射干胡蝶草鳶尾の分別、本草彙言に詳なり、宜く従ふべし、又松岡先生用薬須知にも弁ぜり、増、一種ちやぼひあふぎ(○○○○○○○)、一名大坂ひあふぎ、又えぞひあふぎとも雲ものあり、葉短くして幅広く、葉の末に微く皺あり、又一種江戸ひあふぎ(○○○○○○)、一名くじやくひあふぎ、又たちのぼりとも名くるものあり、茎長く直上して葉茎に附て登りたるが如く見ゆ、又一種四方ひあふぎ(○○○○○○)と呼ぶものあり、葉四方に並び生ず、又間道(しますぢ)のものあり、ほうわう(○○○○)と呼ぶものあり、葉の形に因て名く、又一種ひあふぎあやめ(○○○○○○○)と呼ぶものあり、加賀の産なり、形容共に射干の形にして、花は全く渓蓀(あやめの)花の形の如し、奇品なり、