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増補地錦抄

せきせう せきせうはたくさん成物にして、又よきせきせうはすくなし、其品さまざま有る中にも、鎌倉せきせうといふお上とす、先植様はひりの木にてまげたる器物か、又は手水たらいのそこに水ぬけの穴おほり、しのぶ土に合、肥少まぜ、右の器物に一はい入れ、中の少し高様にならして、さてせきせうの根お水にてあらい、根の長さ一寸ほど置て切てすて、器物の中より段々植て、日かげ成所に上にすだれおかけて置く、成ほどしげく植たるよし、四五月に植たるは、来年の三四月に、器物おやぶりすて見れば、白き根計になりてからむ、水鉢に入葉おすかし、箸にて葉おなでつやお出す、箸にてなづるに心得あり、先づ箸のさきおほそくけづりて、やわらか成紙おまき、清き水にひたしてせきしやうの根本より、葉すへまでなづる、葉末外へねたるは内へ成やうに、又内へまがりたるは外へねせる様に箸おつかふ、手心大節なり、時々手かけてしるべし、とかく毎日箸にてなづれば、葉色いさぎよくなりて、しやんとする物也、つねに水おつけて置ば、根やわらかになりてわるし、葉末より赤くかるヽも、水のすぎたるゆえんなり、但水お少かけて持べし、年おふるほど、根しまりてよし、さて冬は土蔵に入、時々朝日のさす所へ出したるよし、又朝日のさす所に、上と脇お寒気のあたらぬ様にかこいて、置たるもよし雪霜少もあたれば、葉先かるヽ、二月の時分より取出て、葉おすかし指南おすべし、からせきせうは、鉢に植る砂土にかべ土おまぜ鉢にならし、せきせうの葉お、根本より切てすて、鉢の中よりあつく植る、廿日ほどして葉しげりて見事なり、冬は雪霜にあたらぬ様にすべし、まきせうは、岩松おあつめつがねて、針金にてまき、さてせきしやうの根おあらい、わらび縄又はしゆろなわの、成ほどほそきにて、右の岩松へまき付る、猶葉は切てすてたるがまきよし、やがて葉出る物なり、節々箸にてなづべし、岩松にまきたるは、よく水おあげ、久敷さかへてよし、外の物にまきたるはくさりてわるし、近年の仕出しに、ちいさきほうろくに、田土合肥おねりまぜ、平にしてせきせうの根の長きおあらい、葉おむしりすて、右のほうろくのねり土へならべ、所々へ竹の串おさして、根のうごかぬやうにして置、五け月にしてほうろくおやぶりすつるに、よく根からみて有る葉おすかし、手入して用る、俗に亀子せきせうといふ、その形中高くして亀子似たればなり、ほうろくは其性土にして水おふくむゆへ、せきせうおして早くからましむる、又こけらせきしやうといふ有り、是はせきせうの根も葉もよくあらい、油綿お以てなづれば、葉色、うるはしくなるお、竹のくぎおけづり、せきせうおあつめ、根と根へかの釘おうちてかため、夕に拵朝に売る、初心人は是おしらず、かの油にてなでたる葉、色の見事成にまかせて調るに、根は釘付成ゆへ、明日おまたずしてかるヽ、吟味有べし、又沢せきせうと雲は、在郷の沢よりほりて来るお、其まヽあらい、油わたにてなで鉢に入る、是も後はわるし、右の外にもつくり様侍れ共、大方此分よし、