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傭字例
芭蕉芭蕉は、倭名抄に、巴焦二音、倭名発勢乎波(はせおば)とあり、古今集にもばせおばと書り、波字は葉のことなれば省くべきよし、余材抄にもいへり、焦は韻鏡二十六転宵韻の字なり、せおの如く聞ゆる故に、転じてかくいへるか、襖子おあおしといふも同じ、そも〳〵韻に用るはあいうえお等なれば、せおと書べけれども、拗音のおおかけるは、直音の字なれども、御国の音より見ればなほ拗音なる故に、御国の拗音の韻お用しにや、御国の音韻は紀伊(きい)、基肄(きい)、都宇(とう)、斗於(とお)、囎唹(そお)、弟翳(せえ)、穎(え)娃、などヽは韻(ひゞ)けども、せおとは韻かず、焦は子姚切にてしえうの約まる音ゆえに、拗音にておのづからせおの如く聞ゆるなり、紀長谷雄卿の書給へる、大蔵太夫の七十寿序にも、自のお発昭と書給へり、この昭字も同じ宵韻の字にてせおなり、