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農業全書
四/菜
薑しやうがはすぐれたる上品の物なり、論語にも不撤して食すとあり、史記にも広くうへて、其利の過分なる事お載たり、うゆる地は、細沙の肥地に宜し、深く耕し糞お多くうちて、度々犂返し、塊少もなく、縦横四五遍もかき熟しおき、三月うゆる時又かきこなし、さて種子の疵なく芽の少出んとするお分て、指三つのふとさ程お一かぶとし、がんぎお間一尺ばかりおきて深く切、ならびの間五六寸にしてうへ、土お少おほひ、其上より馬屋ごえのよくかれ熟したるお、四五寸もおほひ、少培ひ置べし、さて芽立少出ると、芸り中うちし、人糞油糟は雲に及ず、馬糞麦ぬかなどお厚くおほひ、中うち培ひ段々して、後は高き所お溝のごとくし、万手入およくすれば、利潤他の作り物の及ぶ物にあらず、されども旱に痛み、又寒気のつよき所、又は湿気のつよきおばにくむゆへ、日あてのつよき所ならば、六月は日棚おかき、蘆すヽきなどお、葉ながらあみておほひ置べし、湿気つよくは畦お高くし、溝お深くして、湿おもらすべし、ひでりに早くいたみ、又湿気おも嫌ふ物なるゆへ、初うゆる時、しやうが畠はよく吟味し、日当つよからず、湿はもれやすく、沙がちなるによしと知べし、さて四五月芽立漸くさかへしげりて後、竹のへらにて根の一方お掘、薑母おもぎ取、〈四五月古根おもぎ取事、唐の書にあり、しかれどもこれははやかるべし、〉塩漬醤漬糟にも蔵し、又は乾姜にこしらへ、薬屋にうるもよし、さて七八月根薄あかく、紅おぬりたるごとくなるお、紫薑(しきやう)と雲なり、此時料理によし、市町にも売べし、其後茎葉枯いろになり、根によく肉いりて、九月の末、十月の節に入比ほり取、屋の内の暖かなる湿気なき所に穴おほり、わらお合せて埋みおき、用にまかせて、わきより手風の触ざる様にとるべし、又雪霜のおそくふる国にては、十月まで置てほり取ば、弥からくなる物なり、又ほり取て穴には入ずして、棚おかき、下にも廻りおも、こもにてよくしとみ、其中へ生姜お入、下にぬか火おおきてふすべ湿気さりてしとみたる口およくふさぎおくべし、猶畠よりほり取時、土およく去べし、又生姜の時、売余りたるお、干姜にすべし、浄く洗ひざつと湯煮して、かき灰にまぜ乾し上て、籠などにもりおきて、薬屋にうるべし、生姜にてうりたるに、価おとらぬ物なり、若自分に用ゆるは、灰お交るに及ず、功能ある物にて、日用かくべからずといへども、秋姜お食すれば、天年お損ずと医書に見えたり、されども世俗なべて秋よく用ゆるものなり、但秋は用捨して多くは食すべからず、