[p.1152]
梅園日記

飯倉神明毎年九月、此神明祭に、参詣の人、必生姜お買ふ事あり、山中稠有の、芝神明宮開始縁起〈石塚豊芥所蔵〉に、生姜お此神へ奉る事は、昔社お造立せし飯倉山は、近辺皆赤土也、赤土には種お殖ずとも、生姜おひ出る物なり、自然に出来たる物故に、取あへず神に奉りし事、例になれり、又大石千引の、野乃舎随筆に、神明祭に生薑お粥事は、論語郷党篇に、不撤薑食とある注に、薑通神明去穢悪故不撤とあり、これより誤るかとある人いへり、などあり、按ずるに、これらの説うけがたし、皇太神宮年中行事に、四月十四日、遠江神戸所進種薑、子良宿館南垣内所奉殖也、九月御祭之時御饌所供進也、とありて、伊勢の神宮にて、九月の御饌に奉りしお、そのかみこヽにうつしたる遺風なるべし、