[p.1155][p.1156]
草木六部耕種法
四/需根
茜草紫草の根お作る法鬱金は熱帯の地〈赤道下よりして夏至規に至り、二十三度半の間に係る国土お雲ふ、〉に繁生する草なり、故に寒お畏れ霜に傷むこと良薑に同じ、茎葉は生姜の如くにして大なり、葉間に穂お抽で花お発く、根は青芋(さといも)に似て深黄色なり、此お作る法は、日当り能き野原の真土或は櫨土お軟膨し、此に厩肥の腐て土の如くなりたるお二荷と、三和土〈製法培養秘録に詳に見えたり〉一荷お耕り混ぜて培養し、畑お一歩三畦に作り、百合お作るが如く種根お五目に植付べし、能く他草お耘り、時々盛養水お灑ぎ、且蒟蒻お作る如くに培養するときは、意外に能く肥て児根も蕃息する者なり、十月上旬までに悉掘り採るべし、又種根とするには、今年作りたる根中にて能く実したるお撰び、附たる児根の、欠て脱落ざるやうに、其茎お断去て、南向なる崖下の日当能温処に、深三四尺も坑お掘て、十月初より埋置べし、若すれば寒に傷こと無し、翌年八十八夜頃に至り、其親根おば除て児根お植べし、凡熱帯に応合する草根お、凉際〈赤道下お去ること、二十三四度以下四十度以内の、霜降氷結こと有るべき国土お雲ふ、〉の土地に作るには、皆此法お用て、其種根お貯ふべし、然らざるときは必皆腐敗者なり、又染料に用る草根の色お、濃厚する培養あり、其法血茅茜草の茎お焼たる灰一石、銅山韝炉の灰二斗以上、二品細末し、馬溺及馬溺塩泥にて煉り合せ、水お加へ希して、其根お離ること一尺許の地に、時々此お澆ときは、大に根の肥大のみならず、其根色の甚濃厚なる者なり、故に紫根茜等お作るにも、皆此培養お用ふべし、