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大和本草
八/芳草
蘭 是世俗に花お玩賞する蘭なり、真蘭にあらず、葉は大葉麦門に似たり、数種あり、皆寒暑お畏る、盆にうへたるは、寒月に至り屋下の暖処におくべし、上おおほふべし、平地お高くしてうふるもよし、地にうへたるは、冬春厚きこもお二重にしておほふべし、三月上旬取出すべし、北風お最おそる、北方お厚くふせぐべし、樹下お忌み陰地おこのむ、又水お好む、水おしばしばそヽぐべし、湿地お忌む、甚鉄器おおそる、剪葉忌犯鉄、暑月は日にあつべからず、旱お忌、凉地におきて頻澆水に宜し、蘭のこやしに、くじらの油お用てよし、魚の洗汁も可也、人の浴したる垢汁おかけたる猶よし、正二月傍苗生ず、此時肥しおいむ、又茶のせんじかすお末して根におき、又せんじ茶の汁おそヽぐべし、茶のかすお末せずして其まヽおけば、湿生じてあしヽ、葉に小虫生ずるおば、手に油お付、或紙に油お付てぬぐひとるべし、花鏡には魚の洗汁おそヽぎ、又大蒜おすりて水に和してそヽげば、虫自無と雲、又葉上に斑点あるに魚汁おかくる、蒜汁おば白筆にて付る、盆にうふるは座間の清賞のため也、二月下旬地にうふれば、根ひろく繁生してさかへやすし、盆中は不栄茂、つばきの実皮お去せんじ、蘭根にそヽげば根にある虫去る、一説一切糞お忌、魚汁も勿用、久しき糞土にうふべし、大蘭あり葉大なり、春花お開く春蘭とも雲、希なり、小蘭あり、青茎と雲あり、赤茎あり、黄蘭あり、葉広く短し、黄花お開く、本草芳草類蘭草お載たり、ふぢばかまなり、是真蘭なり、今の蘭は本草別に不出之、蘭草の集解正誤にのせたり、琉球より来る風蘭と雲物あり、これは木にかけおく処の風蘭にはあらず、葉長三尺ばかり、花如蘭有香畏寒、薩摩にあり、琉球の山石に生ず、葉の形及広さも香も常の蘭に同じ、