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草木六部耕種法
十/需花
凡蘭お植る法は、赤土か黄土お細に砕き、軟沙とお等分に合せ、胡麻油粕干鰛お粉にして、其土の二十分之一ほど能く把交て植るお良とす、不浄なる者お肥養に用ること勿れ、且又蘭お植替るも分ち植るも、八月九日お時とす、群芳譜に井水お潅お忌むと雲へり、翅に井水のみならず、総て寒烈なる水お用るは宜しからず、又花鏡の養蘭訣には、春不出夏不日秋不乾冬不湿と雲ふ、今世上の蘭お作る者は、大抵盆栽にして此お賞覧す、然れども盆栽にのみするときは、其根自由に蔓衍すること能はざるお以て、茎葉も盛に繁生すべからず、宜く高燥の地お精砕し、畹お作りて此お植べし、上に説たる如く、胡麻油粕と干鰛お肥培にして植付置き、時々盛養水お薄くして、其根に澆ぐときは、意外に能く茂生する者なり、又は閉蔵法お厳密にすべく、夏秋は乾燥せざるやう遮陽お為し、且湿気お能く除くべし、又鉢植にするには、水の能く脱るやうにし、久霖に当ることお禁じ、冬は閉蔵法お行ふに宜し、或は蘭お花壇に植るときは、消失ると雲ふ説あり誤なり、下総国銚子港は、各別の暖地にも非ず、且土性も亦宜き処にあらず、然れども植田屋徳平なる者の庭に植たる建蘭は、甚盛に繁栄し、数歩の間深碧にして藺田の如く、花開ときは其香近隣に薫ず、以て蘭の花壇に宜きお証するに足れり、