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草木育種後編
下/蘭類并冒称の類
鹿角蘭(しゆめんらん/○○○)〈広東新語〉 寿蘭〈琉球〉入面(しゆめん)蘭〈同〉延命蘭〈薩州〉ともいふ、文化丙子の年、始て琉球より来る、中山入面の地に産す、故にしゆめんらんといふ、俗ににふめんらんといふは訛なり、葉仙人指甲蘭(なごらん)に似て大なり、屋周(おもと)のごとく高く生長す、花は葉間より枝おなし、淡黄色にして黒褐色の斑点あり、油点草(ほとゝぎす)の花に似たり、へこおくだきて巻柏(いはひば)の根お少しまじへ、鉢の下へ炭お入て栽べし、油かす胡麻の類お土へまじへてよし、十月の比より暖窖に入れてよし、〈◯中略〉岩蘭(いはらん/○○) 房州清澄山にて採り得たり、花戸にあるは大坂より来る、根に小塊あり、麦門冬(りうのひげ)の塊に似たり、傍より鬚根六七お生じ、葉は黄精(さゝゆり)に似て長く、茎赤みあり、淡紫の花お開く、赤土のごろたに栽てよし、一種岩千鳥(○○○)、一名君け世〈三州方言〉といふあり、予〈◯阿部喜任〉三州巴川の辺にてとる、崖の石の上に生ず、根に塊あり、岩蘭より茎葉ともに小なり、花に紅白の二品あり、赤土のごろたよし、豆肥お澆ぎてよし、二種ともに年々栽かへてよし、双鶴蘭〈さき草なり〉柳らんの類、かや屋根のふるくくさりたるお細かにし、合土一合、此ごみ一合まぜ合せうえてよし、〈◯中略〉鈴蘭(すゝらん/○○) 野土にても赤土にてもよし、春月早く根お分けてよし、畦に作りてよし、和蘭にてまいぶるーむといふ、頭脳の神経お強壮にするに花お用ふ、又花の細末お鼻に入て嚏薬とし、頭痛お治すといふ、〈◯中略〉